17:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:08:32.22 ID:M4jexkrI0
「日菜ちゃんっ、あなたね……!」
「後処理、大変だった? それは謝るよ。勝手にいなくなってごめんね。でもみんなは今も頑張れてるじゃん? テレビ見たよ。“天下のアイドルバンド、パステルパレット緊急解散! メンバーの家庭環境が原因か?”……って。いいよね、悲劇のヒロインってさ。どこのテレビも雑誌も「かわいそう、かわいそう」って言ってて、いい宣伝だったでしょ? だからおあいこにしてよ」
18:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:08:59.00 ID:M4jexkrI0
「それでどうしたの、千聖ちゃん。こんな場所で」
「……近くでドラマのロケがあったのよ。それで、噂を聞いたから」
19:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:09:32.15 ID:M4jexkrI0
◆
天才だ。
20:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:03.98 ID:M4jexkrI0
きっかけなんてとっくのとうに忘れたけど、おねーちゃんはギターを始めた。カッコよかった。正確な音を刻み、凛々しい佇まいに感嘆のため息を何度も吐き出した。
その隣に立ちたい。隣に並んで、一緒のことをやりたい。昔から何も変わらない行動原理に基づいて、あたしもギターを始めた。
21:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:32.58 ID:M4jexkrI0
おねーちゃんがギターに触らなくなったのに気付いたのは、高校二年生の時だった。
「どうしたの?」と聞いても、何も答えてくれなかった。ただ暗い顔であたしを一瞥して、それから部屋に籠ることが多くなった。
22:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:10:59.08 ID:M4jexkrI0
その日から何もかも分からなくなった。
どうして。
23:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:11:44.85 ID:M4jexkrI0
考えても考えても分からなかった。おねーちゃんはもう何も言ってくれない。あたしに笑いかけてくれない。
ひとりの部屋で一向に答えへ辿り着けそうにないことを悩み続けた。そうしていると、おねーちゃんがどうして旅立ってしまったのかは分からないけど、あたし自身がからっぽになったことだけは分かった。
24:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:12:19.64 ID:M4jexkrI0
生きていく場所は、氷川紗夜を知っている人間が誰もいないところであればどこでもよかった。だから新幹線が停車した駅が綺麗だったからという理由だけで、あたしは仙台で、氷川紗夜として暮らそうと決めた。
その暮らしでまず一番に感じたのは、お金の力は偉大だということ。
25:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:12:56.45 ID:M4jexkrI0
仕事にもおねーちゃんの思考にも慣れたころ、休みの日にボーっとテレビを眺めていると、パステルパレットの解散特集が組まれていた。
彩ちゃんが号泣していた。
26:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:13:29.06 ID:M4jexkrI0
◆
「おねーちゃん、もうこの世にいないから」
27:名無しNIPPER[sage saga]
2019/01/16(水) 01:14:29.61 ID:M4jexkrI0
「日菜ちゃん、あなたのやっていることは……無駄なことよ」
そんなこと考え出したところで、千聖ちゃんは言葉を吐き出す。「そうかもね」と短く応える。
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