【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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48: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:33:22.79 ID:/MDiOILR0
小さな音が鳴った。
それは連続して、不規則に。音の出所を探す。
はぁとさんだった。はぁとさんの歯が、震えでかちかちと鳴っていた。
はぁとさんは自分の両肩を抱えて、凍えるみたいにぎゅっと身を小さくして震えていた。
49: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:34:11.76 ID:/MDiOILR0
はぁとさんはいつもの口調に戻っていた。私たちも思わず笑顔になる。
私にはなんだか、はぁとさんが今までで一番輝いているように見えた。
両の足でまっすぐ立つはぁとさんは、今までに見たどんなはぁとさんよりも、美しかった。
「新曲上等だっつーの! あのプロデューサーの言う通り、全員であの曲スウィーティーに完成させて、フェスでファンの皆のドギモ抜いてやんよ☆」
50: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/16(日) 22:38:25.26 ID:/MDiOILR0
次回が最終回です。12/19(水曜)に投稿予定です。
51:名無しNIPPER[sage]
2018/12/17(月) 05:14:01.26 ID:ErK6iUEDO
ハッシュハッシュクルーザー乙
癌か何かかしら……公演の最中で亡くなるのだけは勘弁やで
52: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/19(水) 20:16:14.98 ID:MnCJ5f3U0
6.Camellia sinensis
時は流れ、十二月、ある水曜日の午後。
私は長い廊下を歩く。廊下のいちばん奥の扉の前には、ちひろさんが立っていた。
53: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:18:04.80 ID:MnCJ5f3U0
「……御足労を……ありがとうございます、相葉さん、ええ、今日は、何曜日ですか……?」
「今日は、えっと、水曜日です、今日の午後、ちょうど、みんなで打ち合わせをして、そのあと私が代表でお見舞いに」
「そうでしたか。……水曜日……」
54: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:19:26.66 ID:MnCJ5f3U0
「用意ができました」ちひろさんがお盆を手に入ってくる「急須と湯のみ、ケトルをお借りしました。お茶は先日のお見舞品でいただいたものです」
「ありがとうございます」
プロデューサーさんは嬉しそうな声をあげる。
55: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:20:32.43 ID:MnCJ5f3U0
「そう、だったんですか」
私の声は少し暗くなった。やっぱり、私たちは、あぶれてしまったお荷物だったんだろうか。
「落ち込む必要はありません。オーディションやスカウトで見いだされたなら、貴方たちは確実に輝くための才を持っているということです。たまたま、巡り合わせがよくなかっただけのことですよ。……ですので、そういう事情なら、その四人を一時的に任せてくれないか、と無理を言って、私は皆さんと共に歩むことにしたのですよ」
56: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:23:16.86 ID:MnCJ5f3U0
あっという間に時間は過ぎゆき、プロダクションの冬のフェスの当日が訪れた。私たちユニットの五人はほかのアイドルの皆と一緒に円陣を組み、最初の曲を全員で歌った。そのあとのプログラム、私たちの新曲のお披露目では、フェスの全体衣装に加えて、それぞれがお花と葉のアクセサリーをどこかに身に着けてステージに臨んだ。
「……みんな、今までで一番綺麗に咲こうね」
57: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:24:39.56 ID:MnCJ5f3U0
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私達ユニットのメンバーはお通夜とお葬式に出席し、それから先は、ちひろさんから納骨や、そのほか様々のことが終わったことを教えてもらった。プロデューサーさんともう会えないという実感が現実味を帯び、そしてそのことが当たり前の日常と同化したころ、次の春がやってきた。
木々は新しい葉をつけ、花を咲かせる。別れがあり出会いがあり、新しいことが始まる季節。慌ただしいけれど、うきうきすることも多い季節。
私たちは、次のイベントに向けたユニット活動に加えて、個々人の活動も活発になり、忙しい日々を送っていた。
58: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:25:54.91 ID:MnCJ5f3U0
私たちのプロデューサーさんの遺品は、形に残らない。
私たちとプロデューサーさんが居た場所も、もうない。
私たちのユニットの活動のどこにも、プロデューサーさんの名前は残っていない。プロデューサーさんが私たちをプロデュースしてくれたことを知っているのは、私たちしかいない。
プロデュースの証として残っているのは、私たちというアイドルそのものだけ。
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