【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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48: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:33:22.79 ID:/MDiOILR0
小さな音が鳴った。
それは連続して、不規則に。音の出所を探す。
はぁとさんだった。はぁとさんの歯が、震えでかちかちと鳴っていた。
はぁとさんは自分の両肩を抱えて、凍えるみたいにぎゅっと身を小さくして震えていた。
「はぁとさん!」
美穂ちゃんがかけ寄ると、はぁとさんはますます身を小さくした。
「だめだ、ムリだろ……」はぁとさんは消えそうな声で言う。「はぁとが、はぁとが余計な事をして、それでプロデューサーが無理して、だからはぁとが、はぁとが悪いんだぞ……? そんなのが、皆と並んで、新曲……? そんなの、そんなの……」
はぁとさんのジーンズの腿の辺りに、はぁとさんの流した涙がぽたぽたと黒い色を落とした。
「はぁとさん、プロデューサーさんだって、気にするなって言ってくれてました!」
私ははぁとさんに言ったけれど、はぁとさんは小さく首を横に振るだけだった。
私も、ほかの皆も立ち尽くしていた。
このままでは、はぁとさんの心が折れてしまう。けれど、どうしたらいいかわからなかった。
「一番スウィーティーじゃねえの、どう考えてもはぁとじゃんか。ダメ、ダメだわこれ、はぁとには……」
そこまではぁとさんが言ったとき、長机の反対側で大きな音が鳴った。
はぁとさんを含めた全員がそちらを注目する。ちひろさんが、今まで見たこともないような真剣な顔で、平手で長机を叩いた音だった。
ちひろさんはずんずんと歩き、はぁとさんの前に立つ。はぁとさんの両肩を掴んで、はぁとさんを見据えた。
「心さん、私は、心さんがここで折れたりしたら、絶対に許しません。もしそんなことになったら、心さんのことを、一生だって恨んで軽蔑し続けますから」
それは、いつも私たちが見ている穏やかなちひろさんとはまるで別人のようだった。
けれど、その顔に、怒りは感じられなかった。きっと、ちひろさんは、はぁとさんに立ち上がってほしいと、真剣に思っているんだ。
はぁとさんは、涙を流してちひろさんを見ている。
ちひろさんは、もう一度はぁとさんの両肩を強く握った。ちひろさんの目にも、涙が光る。
「心さん! あなたは! 私たちの希望なんです! 大人になっても夢は叶う、アイドルになれるって、羽ばたけるって、咲けるって! 見せてください、私に、あなたのプロデューサーさんに、プロダクションの皆に、この世界の皆に!」
ちひろさんははぁとさんの耳元に顔を近づける。
それこそ、ほとんど口づけするみたいに
「あなたは、誰よりスウィーティーな、しゅがーはーと、でしょう……!?」
囁くように、ちひろさんはそう言った。
沈黙が流れた。
誰も、一言も発さなかった。
「ふっ」
やがて、笑い声が漏れた。はぁとさんの口からだった。
「ふ、ふふっ……くくっ……は、あはは……そうだよ……メンゴ、ちひろさん……はー……」はぁとさんは身体から力を抜いて、リラックスした表情で微笑んだ。「あー、目ぇ覚めたぞー、完っ全に」
ちひろさんはゆっくりと、はぁとさんから離れる。
「そうだよなーそうだよなー、誰よりもはぁとが、はぁとを信じてやらなきゃウソだろー。あぶねーあぶねー、危うく夢落っことすところだったっつーの☆」
はぁとさんは目を閉じて、ゆっくりと呼吸する。
「……しゅがしゅが、すっうぃーと、佐藤心、こと、しゅがーはぁと、だぞ」
唱えるみたいに言って、はぁとさんは立ち上がった。
「しゅがーはーとぉっ!! よしっ! もう大丈夫! メンゴ、マジのマジでメンゴメンゴ、みんな、おっまたせー☆ みんなのはぁとだぞー☆ 待ってないとかいうな♪ もう大丈夫、はぁと、絶対折れねー☆ マジだぞ、こっからさきのはぁとのアイドル人生、一度たりとも折れねーかんなー、あ、でも物理的に骨折とかは抜きで☆」
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