【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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58: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:25:54.91 ID:MnCJ5f3U0
私たちのプロデューサーさんの遺品は、形に残らない。
私たちとプロデューサーさんが居た場所も、もうない。
私たちのユニットの活動のどこにも、プロデューサーさんの名前は残っていない。プロデューサーさんが私たちをプロデュースしてくれたことを知っているのは、私たちしかいない。
プロデュースの証として残っているのは、私たちというアイドルそのものだけ。
「でも、だからこそ、頑張らなくちゃ、って思えます」
私たちが胸を張って進み続けることだけが、プロデューサーさんの存在した証に私たちが敬意を表す手段なんだ。
「まったくぅ、マキノちゃんがこの前言ってた通り、最期にとんでもないプロデュースしてってくれたな☆」
はぁとさんの言葉に、二人で笑う。
「あら、はぁとに夕美ちゃんじゃない」
私たちのテーブルに、女性が近づいてきた。美城プロダクションのアイドル、沢田麻理菜さんだった。片手に売店のコーヒーのカップを持っている。
「あれ、何飲んでんの……緑茶? へぇー、はぁと、それは? ノースウィーティーなんじゃないの?」
麻理菜さんは笑ったけれど、はぁとさんは得意顔で言った。
「なに言ってんだ、これは最ッ高にスウィーティーだろぉ☆」
「そうなの? ほんとわかんないわ、その基準」
二人のやりとりを聞きながら、私はおかしくって、一人で笑っていた。
それからは、三人でゆっくりとおしゃべりしながら過ごした。
「……さてと、はぁとさん、私、そろそろ行きます」
お茶を飲み終えてからもしばらくおしゃべりに花を咲かせてから、私は立ち上がる。
「雑誌のインタビューだっけ? ガンバ☆ シュガシュガパワー、普段より多めに夕美ちゃんに分けとくぞ♪」
「頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
私ははぁとさんと麻理菜さんに挨拶をして、湯のみを片付けてからエレベーターで地上階まで降り、エントランスを抜けてプロダクションのビルを出た。
「……っと」
正面から出ようとして、足を止める。
さっき話をしていたせいか、ちょっとだけ気になって、私はビルの前で方向転換をして、駐車場に向かった。駐車場の花壇は今年もアマリリスやナデシコ、ほかにもたくさんのお花さんたちが元気に咲いている。
「……うん。みんな、きれいに咲いてるね」
そうか。私たプロデューサーさんが残したものは、ここにもあった。
私は思わず笑顔になっていた。
「今日も、頑張ろうねっ!」
お日さまの光を浴びて、誇らしげに咲くお花さんたちに声をかける。
私も、みんなも、大切な人たちのくれた誇りを胸に、前を向いて咲き続けるんだ。
私は空に向かって大きく伸びをして、歩き出した。
6.プロデューサー Camellia sinensis チャノキ(追憶)
『水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて』 ・・・END
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