【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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57: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:24:39.56 ID:MnCJ5f3U0
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私達ユニットのメンバーはお通夜とお葬式に出席し、それから先は、ちひろさんから納骨や、そのほか様々のことが終わったことを教えてもらった。プロデューサーさんともう会えないという実感が現実味を帯び、そしてそのことが当たり前の日常と同化したころ、次の春がやってきた。
木々は新しい葉をつけ、花を咲かせる。別れがあり出会いがあり、新しいことが始まる季節。慌ただしいけれど、うきうきすることも多い季節。
私たちは、次のイベントに向けたユニット活動に加えて、個々人の活動も活発になり、忙しい日々を送っていた。
それでも、水曜日の午後には、集まれるメンバーが集まって、お茶を飲みながら、打ち合わせやおしゃべりをする時間を取るようにしていた。
ある水曜日の午後。今日はあまりメンバーの都合が合わなくて、私とはぁとさんだけの参加だった。プロダクションのビルの上階、給湯室に近い休憩スペースの一角で、私ははぁとさんと二人分のお茶を淹れて、テーブルまで運んでくる。
「きゃるーん♪ サンキュー、夕美ちゃん☆」
「どういたしまして。まだ熱いですから、気を付けてくださいね」はぁとさんに湯のみを渡す。「これで、私のぶんも、空っぽになっちゃいました」
「そっか」
はぁとさんはちょっとだけ目を細める。
「あとはくるみちゃんのだけかー。まったく、遺品として茶葉ってなぁ、しかも缶じゃなくて袋詰め、完全に消耗品だっつーの☆」
言ってから、はぁとさんはお茶をひと口。
「ふふっ、でも、プロデューサーさんらしいと思うなぁ」
私もひと口。上品な甘みが口の中に広がっていく。うん。今日はいつもより上手に淹れられたかな。
亡くなったプロデューサーさんは、私たちに一人一袋の緑茶の茶葉を残してくれていた。逆にそれ以外のもの、たとえばいつまでも形に残るようなものは、何も残してはくれなかった。
構わず先に進め、というプロデューサーさんの遺志の形なんだろうと、私たちは受け取ることにした。
一方で、このお茶を飲むために水曜日の午後に集まることが、個々の活動でなかなか一緒に居られない私たちを繋ぎ続けてくれてもいた。これも、プロデューサーさんのプロデュースなのかと思うと、頭が下がる思いだった。
「はぁあ、あの駐車場もすっかり綺麗になっちゃったよなー……」
はぁとさんは窓からプロダクションの駐車場を見下ろす。私たちが去年一年を過ごした社外の事務室は、その主が居なくなったことで取り壊しになり、警備員室は社屋内に設けられたスペースに統一された。
窓から駐車場を見下ろすはぁとさんの横顔は、ちょっとだけ寂しそうだった。
「ほんとに、私たちだけになっちゃいましたね」
「そーだなー」
二人で湯のみの水面を見つめる。
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