【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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54: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:19:26.66 ID:MnCJ5f3U0
「用意ができました」ちひろさんがお盆を手に入ってくる「急須と湯のみ、ケトルをお借りしました。お茶は先日のお見舞品でいただいたものです」

「ありがとうございます」

 プロデューサーさんは嬉しそうな声をあげる。
 私はケトルでお湯を沸かし、急須にお茶の葉を入れた。

「お湯はまず湯のみに注いで少し冷まします。お茶の種類にもよりますが、湯気が少し落ち着くくらいまで待ってください。……もう少し……そろそろでしょう。急須の中にお湯を注いでください。そのまま、動かさずに待ちます。お茶の葉が開くまで、焦らずに」

 私はプロデューサーさんの指示の通りに動いた。
 プロデューサーさんは感慨深そうな表情で、私がお茶を淹れる様子を見つめていた。
 急須から、お茶のいい匂いが立ち上ってくる。
 私の視界が潤んだ。

「そろそろよさそうです。いい香りだ」

「はいっ」

 私は涙を拭った。隣でちひろさんも目元を押さえていた。

「急須をゆっくり回してください。濃さを均等にします。湯のみに少しずつ、何度かに分けて回し、注いでください。最後の一滴まで……」

 私は言われた通りにする。

「ありがとうございます。さあ、どうぞ、と言うのは少し変ですね。淹れてくださったのは相葉さんだ」

「ふふっ。おいしくできているといいなぁ。いただきます」

「いただきます」

 プロデューサーさんの湯のみは、プロデューサーさんに香りが届くように、枕の近くに置いた。私とちひろさんは、お茶を頂く。

「おいしいです」

 ちひろさんはしみじみと言う。

「うん。おいしいです。でも、やっぱりプロデューサーさんが淹れてくれたお茶が忘れられません」

 私が言うと、プロデューサーさんはちょっと笑った。
 それから、私たちは少しのあいだお茶を楽しみ、ゆっくりした時間を過ごした。


 ちひろさんが借りた道具を返すために病室を出たので、私は再び、プロデューサーさんと二人きりになった。
 プロデューサーさんの顔は、私が最初に部屋に入ったときよりも少し血色がよくなっているように見えた。

「……プロダクションの駐車場は、様々な人が通り過ぎていきます」

 プロデューサーさんが窓の外を見て呟く。
 私は少し姿勢を正して、プロデューサーさんのお話を聞くことにした。

「皆さんのような所属のアイドルや芸能のほかの部門の人々、社員や業者、取引先……人々が通り過ぎる中で、すこし珍しい人が居ました。駐車場の花を嬉しそうに眺めて、時にはなにやら話しかけているお嬢さんです」

 窓越しに、プロデューサーさんが私に微笑みかける。
 私は恥ずかしくなった。やっぱり、プロデューサーさんに見られてたんだ。

「社内の知人に、そのお嬢さんが美城プロダクション所属のアイドルだと教えてもらいました。それから少し経って、今年の春です。アイドル部門で倒れた社員が出たことで、社内は大騒ぎになりましたね。そのとき、スケジュールの都合で、どうしてもプロデューサーをつけられそうにないアイドルが四人、出てしまったと聞きました。それが、貴方たちです」



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