【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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44: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:22:38.07 ID:/MDiOILR0
結局それから私たちは、特別何をするでもなく、一時間近く落ち着かないままでプロデューサーさんを待って時間を過ごした。はぁとさんは不機嫌そうな顔で黙ってしまい、マキノちゃんはときどきスマートフォンを操作しながらなにやら考え事をしていた。私は美穂ちゃんとくるみちゃんとおしゃべりをしていたけれど、どこかぎこちない。
やがて扉が開き、プロデューサーさんが戻って来た。表情は険しいままで、額には汗がにじみ、後ろにはちひろさんを連れていた。
「戻りました。皆さん、お呼び立てしたのにお待たせして申しわけない」
45: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:24:46.29 ID:/MDiOILR0
「それなら!」はぁとさんは机を手で叩く。「それこそ子供じゃないんだから、最初に言えよ!」
プロデューサーさんは首を横に振った。
「佐藤さんが実績を積むことに焦っているとわかっていました。その状態で体幹の崩れを伝え、私やトレーナーの前だけで良いように見せられてしまっては、意味がない」
46: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:27:51.71 ID:/MDiOILR0
「美穂ちゃん、事務室の扉を開けて、固定して。マキノちゃんと一緒に、外に出て救急車をここまで誘導してください!」
「わかりました!」
美穂ちゃんは言われた通りにすると、マキノちゃんと一緒に外に飛び出していく。
47: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:30:33.56 ID:/MDiOILR0
「冬のプロダクションのフェスで発表する予定で進められていました」
それは、私たちのユニットのために書かれた歌だった。
苦しい夏を越え、秋を経て冬を耐え、次の春に咲く、花たちの歌。
48: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:33:22.79 ID:/MDiOILR0
小さな音が鳴った。
それは連続して、不規則に。音の出所を探す。
はぁとさんだった。はぁとさんの歯が、震えでかちかちと鳴っていた。
はぁとさんは自分の両肩を抱えて、凍えるみたいにぎゅっと身を小さくして震えていた。
49: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:34:11.76 ID:/MDiOILR0
はぁとさんはいつもの口調に戻っていた。私たちも思わず笑顔になる。
私にはなんだか、はぁとさんが今までで一番輝いているように見えた。
両の足でまっすぐ立つはぁとさんは、今までに見たどんなはぁとさんよりも、美しかった。
「新曲上等だっつーの! あのプロデューサーの言う通り、全員であの曲スウィーティーに完成させて、フェスでファンの皆のドギモ抜いてやんよ☆」
50: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/16(日) 22:38:25.26 ID:/MDiOILR0
次回が最終回です。12/19(水曜)に投稿予定です。
51:名無しNIPPER[sage]
2018/12/17(月) 05:14:01.26 ID:ErK6iUEDO
ハッシュハッシュクルーザー乙
癌か何かかしら……公演の最中で亡くなるのだけは勘弁やで
52: ◆Z5wk4/jklI[saga]
2018/12/19(水) 20:16:14.98 ID:MnCJ5f3U0
6.Camellia sinensis
時は流れ、十二月、ある水曜日の午後。
私は長い廊下を歩く。廊下のいちばん奥の扉の前には、ちひろさんが立っていた。
53: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:18:04.80 ID:MnCJ5f3U0
「……御足労を……ありがとうございます、相葉さん、ええ、今日は、何曜日ですか……?」
「今日は、えっと、水曜日です、今日の午後、ちょうど、みんなで打ち合わせをして、そのあと私が代表でお見舞いに」
「そうでしたか。……水曜日……」
54: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/19(水) 20:19:26.66 ID:MnCJ5f3U0
「用意ができました」ちひろさんがお盆を手に入ってくる「急須と湯のみ、ケトルをお借りしました。お茶は先日のお見舞品でいただいたものです」
「ありがとうございます」
プロデューサーさんは嬉しそうな声をあげる。
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