【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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45: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:24:46.29 ID:/MDiOILR0
「それなら!」はぁとさんは机を手で叩く。「それこそ子供じゃないんだから、最初に言えよ!」
プロデューサーさんは首を横に振った。
「佐藤さんが実績を積むことに焦っているとわかっていました。その状態で体幹の崩れを伝え、私やトレーナーの前だけで良いように見せられてしまっては、意味がない」
はぁとさんは押し黙った。反論できなかったのかもしれない。
「トレーナーからは、佐藤さんの完成は見えてきたと伺っています。……ここまで、佐藤さんは本当によく頑張ってくださいました。そして、あともう少しです」
そこまでプロデューサーさんが話したとき、マキノちゃんが静かに右手を挙げた。
「……でも、そこまで完成しているなら、仕事をキャンセルする必要はなかったんじゃないかしら?」
「そう!」はぁとさんはマキノちゃんの意見に乗る。「せっかく取った仕事だったのに、無理やりキャンセルなんて、そこまですること――」
そこまで言ったとき、プロデューサーさんが手のひらを佐藤さんに向けて制した。
「芸能界は広く、それゆえに残念ながら、悪意を持った者も居ます。広く知られてはいませんが……この番組のディレクターと書かれている男……平気で人を使い潰し、己の欲望のためなら道を外れたこともする。もし関わっていれば佐藤さんだけでなく、プロダクションにも影響を及ぼしかねない。そのため、強引でも迅速に行動しなくてはなりませんでした。そうでなくては、それこそ佐藤さんとの契約を見直す事態になりかねない」
言って、プロデューサーさんは机の上に置かれた資料に書かれた名前を睨むように目を細めた。
「なるほど。そういうこと。調査不足だったわ」
マキノちゃんは言ったけれど、まだ納得していないことがあるのか、口元に手をあてて何かを考えていた。
「そんな……そんな、でも、だって、はぁとは……」
はぁとさんは口の中で何かつぶやきながら、覇気を失った様子でゆっくりと椅子に座った。
「佐藤さん」プロデューサーさんは再び、穏やかな顔に戻ってはぁとさんに語りかける。「気にしないでください。説明できない事情が多かっただけのことで――」
そこまで言って、プロデューサーさんの身体が突然、ぐらりと揺れた。
「う、むっ」
プロデューサーさんはその顔を苦痛に歪ませて、両手で机を掴んで自分の身体を支えようとする。けれど、膝から崩れ落ちてしまった。そのまま、事務室の床に倒れる。パイプ椅子が倒れる乱暴な音が響いた。
「プロデューサーさんっ!」
私と美穂ちゃんが駆け寄る。
「いけないっ!」ちひろさんが入ってくる。「誰か、救急車を呼んでください!」
「あ、はいっ!」
私は机に置いたバッグの中のスマートフォンを取ろうとする、けれど、すでに自分のスマートフォンをその手に持っていたマキノちゃんのほうが早かった。
「私が呼んでおくわ。――救急。はい、急病人です。急に倒れて、はい、場所は美城プロダクション、はい、その住所で間違いありません。男性、年齢は七十歳前後だと思います。意識は……あるようです、呼吸も」
マキノちゃんは冷静に話す。けれど、唇がほんの少しだけ震えていた。
私は電話をマキノちゃんに任せ、プロデューサーのところに駆け寄る。ちひろさんが脈を取っている。
「しっかり、安静にしてください! 頭は打っていませんか!?」
ちひろさんはプロデューサーさんの耳元に声をかけ続けていた。
「プロデューサーさん、いま、マキノちゃんが救急車を呼んでくれています!」
私が言うと、プロデューサーさんは苦しそうにうめいて、荒く、短く数回呼吸したあと、ふーっと長く息を吐いた。
「千川、さん……!」
プロデューサーさんはちひろさんに何かを伝えようとする。
「喋らないでください、安静に、お願いです」
ちひろさんは泣き出しそうな声をあげてプロデューサーさんの姿勢を整える。
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