【モバマス】水曜日の午後には、温かいお茶を淹れて
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46: ◆Z5wk4/jklI[sage saga]
2018/12/16(日) 22:27:51.71 ID:/MDiOILR0
「美穂ちゃん、事務室の扉を開けて、固定して。マキノちゃんと一緒に、外に出て救急車をここまで誘導してください!」

「わかりました!」

 美穂ちゃんは言われた通りにすると、マキノちゃんと一緒に外に飛び出していく。
 くるみちゃんは泣きながらおろおろしていた。
 はぁとさんは、茫然自失とした様子で、椅子に座ったままプロデューサーさんのことを見て、小さく、早く呼吸を繰り返している。

「くるみちゃん、大丈夫。落ち着いて、座っていて」

 ちひろさんは優しく、くるみちゃんに話しかける。

「あうぅ、でも、くるみ、くるみ……ぷろでゅーしゃー……」

「くるみちゃんが落ち着いてくれるのが、一番プロデューサーさんも安心できると思うな」

 私が言うと、くるみちゃんは頷いて、持っていたティッシュで鼻をかみ、椅子に座った。

「……心さんも、落ち着くことに専念してください。いまあなたにまで倒れられたら、さすがに対応しきれません」

 ちひろさんが言うと、はぁとさんは真っ青な顔で小さく頷いた。
 やがて、救急車のサイレンの音が近づき、事務室の前で止まった。がちゃがちゃと音がして、救急隊員の人が担架を持って入ってくる。隊員の人はプロデューサーさんの容態を確かめてから、丁寧に担架に載せた。ちひろさんと私は、担架の後を追って事務室を出る。

「何があったんですか」

 外に出ると、プロダクションの社員の男の人が心配そうな顔で出てきていた。春、私とユニットのみんなの顔合わせについて教えてくれた人だ。担架に横たわるプロデューサーさんを見て、はっとした表情をする。

「そんな……!」

「このまま、私が病院に随伴します」

 ちひろさんが言うと、苦しそうな声を上げてプロデューサーさんが目を開けた。

「いや……時期がきたようです。千川さんには、私よりも皆さんへの説明を……お願いします」

「そんな、やめてください! それに、誰かが随伴しないと」

「お願いします」

 プロデューサーさんは苦しそうに、でも強い意思を含んだ声で言った。

「では、病院への随伴は私が、それでいかがですか」

 社員の男の人がちひろさんに言う。

「……」ちひろさんはプロデューサーさんの顔をじっと見て、やがて頷いた。「すいません、お願いします」



 プロデューサーさんを乗せた救急車がサイレンとともに走り去って、私たちはちひろさんに促されて事務室へと戻った。
 事務室の中でははぁとさんが、私達が事務室を出たときと同じ姿勢で、椅子に座ったまま机の何もないところを見つめていた。その背中を、くるみちゃんがゆっくりとさすってくれている。
 私たちはそれぞれがもとの場所に座り直す。ちひろさんは事務室の床に置いていた社用の封筒を拾い上げ、プロデューサーさんの席に立った。

「……病院からの連絡があれば、皆さんにもお伝えします。……ごめんなさい、まだ混乱していて、何から伝えればいいか……」

「あの、プロデューサーさんは、もしかして……前からお身体が悪かったんでしょうか」

 私はちひろさんに尋ねた。私はこの前のくるみちゃんとのお仕事のときも、プロデューサーさんが急に苦しそうな表情を見せたことを思い出していた。
 ちひろさんは頷く。

「……その通りです。医者からは、既に予後の宣告も」

「そんな状態で、お仕事を……」

 美穂ちゃんが言うと、ちひろさんは再び頷き、それから封筒を開いて、中から書類を取り出した。

「今日、皆さんにお伝えする予定だったことを、代理で私から説明させていただきます」

 ちひろさんは私達のそれぞれに、書類を配る。

「……これ……!」

 私の驚きは思わず声に出ていた。書類を持っていないほうの指で、紙面をなぞる。指の先が震えた。

「新曲、ね。……私達の」

 マキノちゃんが言う。言って、すぐに深いため息をついた。

「は? なんだよ」はぁとさんが震える声でつぶやく。「なんだよ、これ……はぁとの名前も、あるじゃん……なんだよ……」



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