236: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:30:29.46 ID:qW+Kebhi0
んぐんぐんぐ。
まるで乾いた砂地に染みこむかのように、俺の身体はビールを受け入れていく。気が付けば、ジョッキは空になっていた。俺は、当然の権利を行使するがごとく樽から二杯目のビールをすくいあげた。
237: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:30:56.22 ID:qW+Kebhi0
……誰かと酒を酌み交わすのは久しぶりのことだ。認めたくないことではあるが、たとえその相手が忌々しい炎魔将軍だとしても一人で飲むより何倍も愉快だった。千鳥足テレポートの成功率が、複数人だと上がるという話は実のところそこに理由があるのかもしれない。
238: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:31:22.70 ID:qW+Kebhi0
「少なくとも、現魔王様の支配下にある魔物たちは魔王軍壊滅以降そんなことはしていない。一部、魔王様の手を離れた魔物についてはあずかり知らぬがな。どうする……それでもお前は、魔王様を手にかけるのか?」
239: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:31:50.23 ID:qW+Kebhi0
そんなこと考えもしていなかったさ。だがマスターの言い分は、至極尤もなものだ。魔王の代替わりによる再びの戦火。その可能性は十分に起こりうる。だが勇者としても、一個人としても魔王を打ち倒すことが許されないなんて。ならば、俺はいったいどうすればいいというのだ。魔王を倒すこともできず、千鳥足テレポートをつかうこともできずに俺はただ一人何をするでもなく呆けて立っていなくてはならないのか。
俺とマスターは先ほど同盟を結んだ。俺たちは、いま彼女を探すうえで協力関係にある。仮に、俺が役立たずに甘んじていたとしても、きっとマスターは彼女を見つけ出してくれるだろう。だが、いくらマスターが手を貸してくれるからといって、俺が指をくわえてそれを見ているわけにはいかない。マスターにはマスターの理由がある様に、俺には俺が彼女を探す理由がある。
240: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:32:17.19 ID:qW+Kebhi0
「……元気にしています」
241: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:32:45.57 ID:qW+Kebhi0
検討の余地などない。魔王が人々に害をなさないというのであれば、俺が勇者として奴を打ち倒す必要もない。それに、耐性の力を失うことなく、千鳥足テレポートが使えないままでも彼女に会えるというのなら、それこそ魔王を打ち倒す理由が無くなる。
「俺は、二度と魔王に危害を加えない」
242: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:33:13.08 ID:qW+Kebhi0
「どうやら、俺は勇者失格なようだ……かつて身に宿していた使命感は既に腐りきってしまった。もはや、自身のことを《勇者》だなどと名乗ることも憚られる」
「そうですね……それでしたら貴方は《ビール》とでも名乗ったらいかがです?」
243: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:33:44.60 ID:qW+Kebhi0
俺は、呆けている炎魔将軍に張り手を一発かまし「連れていけ」と促す。炎魔将軍は、機嫌悪そうに頬をさすり歩き出し、俺はそのあとを黙ってついていく。
中二階を降り、大樽の間を進んでいくと地下に続く階段が姿を現した。周りには樽が敷き詰められており、近づかなければ全く気づきようがない。つまるところ、秘密基地の更なる秘密通路という奴だ。魔王城の玉座の後ろにある階段みたいなものだ。
244: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:34:19.11 ID:qW+Kebhi0
「炎魔将軍、お前に借りは作りたくない」
245:今日はここまでです ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:35:57.79 ID:qW+Kebhi0
――――――
ラストオーダー
最後の一杯 勇者根性スピリッツ
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