237: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:30:56.22 ID:qW+Kebhi0
……誰かと酒を酌み交わすのは久しぶりのことだ。認めたくないことではあるが、たとえその相手が忌々しい炎魔将軍だとしても一人で飲むより何倍も愉快だった。千鳥足テレポートの成功率が、複数人だと上がるという話は実のところそこに理由があるのかもしれない。
「しかし、すごい設備だな」
酔うことのできなくなった身体ではあるが、その場の雰囲気に飲まれたのかつい本音が口をついて出てきてしまう。対する炎魔将軍は……こっちは、喜びのあまりか杯を重ね続け顔が真っ赤になりつつある。いや、もともと赤い顔をした男だったが、その赤さがより増している。
「ああ、ここまで辿り着くのに5年かかった……。お前に魔王軍を壊滅させられた後、各地に散っていた仲間を集めつつ、密造酒市場を武力で握り、少しずつ資金を貯め。ようやく、これだけの設備を手に入れた。おかげで、魔王軍はいますっからかんだ」
「すっからかんだと?……本末転倒じゃないか、それじゃあいつまでたっても魔王軍を再興できんぞ」
「魔王軍の再興? はっ、そんな夢はそもそもない」
聞き捨てのならない言葉だった。魔王軍は、再興を図るために資金集めの手段として密造酒市場を牛耳っていたのではなかったのか? 俺の眉間には自然と皺が寄り、炎魔将軍の言葉を聞き逃すまいと前のめりになっていた。
「……そもそも魔王様の目的は、魔族をより繁栄させることだ。その手段としての魔王軍だったのだ」
「魔族の繁栄?」
「そうだ、私たちは繁栄を得るため魔物たちの国を作ろうとした。魔王軍の強大な力をもってして領土を得ようとしたが……まあ、お前の、勇者の力を前に、その夢は潰えたというわけさ」
「だから、資金を貯めて再興を図ろうとしているんじゃないのか? 」
「違うな、武力だけじゃあダメだと悟ったのさ。だから、私たちは手段を変えた。人間の社会に溶け込み、人間の繁栄に乗っかることにした。密造酒市場に手を出したのは、資金集めの一方で人間たちの胃袋を握るという側面もあるのだよ」
「……じゃあ、もう魔物によって人々が虐げられることはないのか?」
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