236: ◆CItYBDS.l2[saga]
2019/05/25(土) 17:30:29.46 ID:qW+Kebhi0
んぐんぐんぐ。
まるで乾いた砂地に染みこむかのように、俺の身体はビールを受け入れていく。気が付けば、ジョッキは空になっていた。俺は、当然の権利を行使するがごとく樽から二杯目のビールをすくいあげた。
「……どうだ?」
炎魔将軍は、その強面に似合わぬ不安げな表情を浮かべている。とても先ほどまで命のやり取りをしていた者に向ける顔とは思えない。
「まぁ、普通だな」
「そ、そうか! 」
たいした賞賛を与えたわけでもないというのに、炎魔将軍の顔からは陰りが消え明らかに胸をなでおろした様だ。「普通」の評価がよほどうれしかったのだろう。ならば、もっとけちょんけちょんに言ってやればよかったと少しばかり後悔の念が残る。
実のところ、ビールの味は特にこれといって褒めるようなものではなかった。決してまずいというわけではない。ただ違法酒場でよく出されているビールより旨いかと聞かれると「同じぐらい」としか思えない程度のものだった。
「初めてにしては、なかなかのものだと思いますよ」
マスターは空のジョッキを机に置き、「もう一杯頂いていいですか?」と炎魔将軍に尋ねた。
「ど、どうぞどうぞ!?」
マスターの言葉に、炎魔将軍の喜びは有頂天に達したらしい。目じりが下がり、頬がゆるまり、口角がものすごい角度で吊り上がっていく。このまま放置していれば、小躍りしだしそうな勢いだ。そのあまりに嬉しそうな様子に、つい俺も微笑んでしまいそうになった。
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