29: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/07(月) 19:57:53.16 ID:eRaIODkj0
いやそれよりも、どうしよう? これいくらぐらいするんだろう? このぐらい大きい鏡だと、かなり高いはず……
「あ、言い忘れたことが――なんだこれ」
声に目を向けると、さっき出て行ったプロデューサーさんが戻ってきていた。
30: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/07(月) 19:58:47.49 ID:eRaIODkj0
再び部屋を出て行くプロデューサーさんを見送り、オーディオの再生ボタンを押す。
トレーナーさんから指摘されたところを思い返し、流れる音楽に合わせてひとつひとつ反復していく。
体中から汗が流れ、筋肉がきしみを上げる。苦しいけど、なんだか気持ちよかった。
体を動かしているあいだはなにも考えずにいられて、嫌なことをぜんぶ忘れられるようだった。
31: ◆ikbHUwR.fw[sage]
2018/05/07(月) 19:59:41.63 ID:eRaIODkj0
(本日はここまでです)
32:名無しNIPPER[sage]
2018/05/07(月) 21:59:12.02 ID:XX5iWazL0
お疲れ様です
良い感じ
33: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:25:39.88 ID:xTncLF7m0
04.
「間に合いそうにないなこれ」
運転席のプロデューサーさんが、ひとりごとのようにつぶやいた。
34: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:26:58.01 ID:xTncLF7m0
346プロに所属してから、およそ1ヶ月が経つ。
私と行動を共にすることが多いプロデューサーさんは、たびたび私の不幸の巻き添えにあっていた。
私自身は長い経験で慣れていることもあって、目に見えるようなケガをすることは多くない。だけどプロデューサーさんはそうはいかない。
不幸中の幸いか、重症というほどのものは今のところないけど、細かな擦り傷や切り傷は、日を追うごとに増えていっている。
誰だって痛い思いはしたくない。プロデューサーさんも、いいかげん嫌になってきているころだろう。だけど、この人はなぜか、そのことについてなにも言及しない。
35: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:28:47.38 ID:xTncLF7m0
「そう焦ることはない」
プロデューサーさんが言った。
「全部が全部オーディションにもたどり着けてないわけじゃないだろ。多くはないけど仕事もしてる。うちはよっぽどのスキャンダルでもない限りは契約解除するようなことはないから、細々とやっていくなら今のままでも心配は要らない」
36: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:29:58.97 ID:xTncLF7m0
「本当にそれだけか?」
「え?」
「いや……じゃあトップアイドルにならなきゃな」
37: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:31:34.88 ID:xTncLF7m0
「少し話を戻すと」
しばらくメトロノームみたいに行き来するワイパーを眺めて、プロデューサーさんが言った。
「間に合いそうにないなこれ」
38: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:33:28.34 ID:xTncLF7m0
プロデューサーさんがいちど腕時計を見てから携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始める。
おそらく、開始時刻までにオーディション会場にたどり着けないことが確定したんだろう。
渋滞に巻き込まれて間に合わない旨を告げ、時間を遅らせる、あるいは日をずらすことは可能かと問いかける。しばらく相手の言葉に合わせて相槌を打つ。
プロデューサーさんのほうの声しか聞こえないけど、「無理だ」という回答が返ってきたらしいことはわかった。
39: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:35:49.53 ID:xTncLF7m0
*
お仕事が少ないぶん時間には余裕がある私は、空いているレッスン室を使って自主レッスンすることを日課にしている。
長い時間をかけて渋滞を抜け、事務所に戻ってきたあと、私はプロデューサーさんと別れてそのまま第4レッスン室に向かった。
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