33: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:25:39.88 ID:xTncLF7m0
04.
「間に合いそうにないなこれ」
運転席のプロデューサーさんが、ひとりごとのようにつぶやいた。
あと30分ほどで私の参加するオーディションの開始時刻になる。予定ではとっくに着いているはずだったけど、この先で信号機の故障があったらしく、私たちの乗る車は渋滞に巻き込まれていた。
「仕方ない、縁がなかったと思おう」
プロデューサーさんの声に怒りや苛立ちの色は感じられず、私は少しほっとした。
オーディション会場にたどり着けないのはこれが初めてじゃない。というより、様々なアクシデントで、参加できないことのほうが多い。内心では、今度こそ怒鳴られるんじゃないかと怯えていた。
「すみません」と私は言った。
「すぐ謝るよな」
「……すみません」
「あまりよくないクセだよ、それ。やめたほうがいい」
「でも、私のせいですから」
「出れなくて困るのは白菊だろ。他の参加者は勝率が上がって喜ぶよ」
「……プロデューサーさんは、困ってるでしょう?」
「別に」
プロデューサーさんがそっけなく答える。
「この程度のオーディション、受かっても落ちてもたいしたことじゃない」
ちらりとハンドルにかけられたプロデューサーさんの包帯の巻かれた手を盗み見て、私は「オーディションのことだけじゃないんです」と心の中でつぶやいた。
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