36: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:29:58.97 ID:xTncLF7m0
「本当にそれだけか?」
「え?」
「いや……じゃあトップアイドルにならなきゃな」
前方の車は、まったく動き出す気配がない。
沈黙が車内を満たしたけど、不思議と居心地が悪いという感じはしなかった。
「……プロデューサーさんは、信じれば夢は叶うって思いますか?」
「いや、信じてるだけじゃ駄目だろう」
「努力して、実力をつけろってことですか?」
「それもあるけど」
プロデューサーさんがハンドルを離してシートに背中を預ける。
「人気とか知名度ってのは実力順じゃないから。あまり世に知られていない実力者が知られないまま消えていくなんて、珍しいことじゃない」
「その違いは……運、でしょうか……」
「違うなぁ」
「違うんですか?」
「才能や運のせいにしてるようなやつは、まだまだできることをやり切ってないよ」
呼吸が止まる。
プロデューサーさんは特定の誰かを指して言っているわけじゃない。そうわかっていても、自分のことを言われているように思えた。
私は、不運のせいにしているのだろうか?
「実力ってな、世に知らしめるところまで含めて実力だよ。黙ってても誰かが見つけてくれるだろうなんて大間違い、それは自分でやらなきゃいけないことだ。ひとりきりで山にこもって延々修行しているやつを誰が見つけてくれる? そいつが世界一強いとしても、一生誰にも知られることはないのが当たり前だ。自分だけが知ってればいいというのならかまわないけど、それで世に認められないと嘆くのは、ただの馬鹿だろ」
平然とした口調で厳しいことを言うので、少しびっくりした。
「えっと……じゃあ、どうしたら?」
「この例だったら、山を下りて道場破りでもしたらいいんじゃないかな」
「……アイドルだったら?」
「そんなに変わらない、戦って勝つ。戦えるチャンスを探して飛び込んでいく」
「どうして、戦いなんかにたとえるんですか?」
「人生はなんでも戦いだよ。まあ、戦略的なところは悪い大人が考えることだから、白菊が頭を悩ませることじゃない」
雨が降り始めた。
ぽつぽつと雨粒がフロントガラスを叩くのを見て、プロデューサーさんがワイパーのスイッチを入れた。
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