白菊ほたる『災いの子』
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37: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/05/10(木) 17:31:34.88 ID:xTncLF7m0
「少し話を戻すと」

 しばらくメトロノームみたいに行き来するワイパーを眺めて、プロデューサーさんが言った。

「間に合いそうにないなこれ」

「戻りすぎでは……」

 プロデューサーさんが小さく笑う。

「信じるだけなら、なにもしてないのと同じだよ。夢を叶えたいなら、そのための方法を考えて実践しないとさ。その点では、白菊はその歳で自ら芸能事務所に飛び込んでいってる。行動力は悪くない。ただ、事務所はもっと選ぶべきだった。最初の事務所は、どうしてそこに入った?」

「えっと、オーディションを開いているところを調べて……所属アイドルがそんなに多くはないところに」

「つまり、自分でも入れそうな程度のところを受けたんだな」

 私は言葉に詰まった。間違ってはいないけど、これを肯定してしまったら、最初にいた事務所に失礼だと思ったからだ。

「小さい事務所ってのはカネがない。そういうところが求めているのは即戦力か、なんでもいいかのどっちかだ。実際のところはズブの素人に即戦力なんているわけないから、だいたい後者ってことになる。そういった意味では入りやすいのは間違いないけど、そこから成功することは難しい。育成や売り出しにカネをかけられないから、取ってこれる仕事もたかが知れていて、なかなか実績には結び付かない。小さい事務所から成り上がるよりは、最初から大手に入ったほうが成功する可能性はずっと高い。大きいところも利益を出すことが目的なのは同じだけど、こっちは気が長いっていうのかな、すぐに仕事をさせられるレベルでなくても、将来利益を出す見込みがあると思えば採用する。駄目元でもなんでも、まずは大きいところから、片っ端から受けた方がよかった」

 今更そんなことを言われても、という思いはある。
 だけど346プロに来てから、環境の差というものはたしかに実感した。レッスンの設備もそうだし、事務所のお仕事に対する姿勢がぜんぜん違った。
 以前所属していた事務所のプロデューサーさんが、「大手は大手というだけで優遇されている」と愚痴をこぼしていたことがある。事実、オーディションの合格率は、大きい事務所の所属アイドルが圧倒的に高いらしい。
 だけど、346プロに入ってわかった。それは優遇されているのではなく、心構えの違いだ。
 今までにいた事務所ではオーディションの予行練習なんてやったこともなく、基本的にアイドル任せだった。とりあえずエントリーして、なにかの間違いで受かればいいというような方針だ。
 一方で346プロは、同種のオーディションの合格傾向、主催や審査員の好みまで綿密に分析し、それに合わせたレッスンを積んだ上でのぞんでいた。これでは、勝負になるはずがない。

「……じゃあ、もし私が346プロを受けていたら、採用しましたか?」

「選考が俺だったらね」

 私はプロデューサーさんのほうを見た。

「……本当に?」

「そうなってたらよかったんだけどな」


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