150: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:54:42.34 ID:sg2qAd8w0
1週間ほど経って、例の事務所から電話がかかってきた。どうやら番号は一応控えていたらしい。
《以前おっしゃっていた、白菊の移籍の件ですが》
前のときより、いくらか疲れているような社長の声が届く。不思議なことに、消沈していてもまだ横柄そうに聞こえた。
151: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:59:33.52 ID:sg2qAd8w0
あの事務所にはひとりだけ、それなりの人気を博しているアイドルがいる。
彼女の予定を調べ、仕事が終わってひとりで歩いているところに声をかけて名刺を渡した。
君の活躍は知っている、しかしあの程度の事務所にいては先が見えている、君は本当はもっと大きな舞台に立てるはずだ、と適当に思いついた言葉を並べ立て、近くの喫茶店に誘う。
彼女は黙秘権を行使するように口をつぐみつつも、後についてきた。
152: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:00:27.08 ID:sg2qAd8w0
2日後の15時ちょうど、同じ喫茶店を訪れた。
彼女は先に店に入っていて、チーズケーキをつつきながら紅茶をすすっていた。俺は席にはつかず、彼女の前に立って、テーブルの上に一通の封筒を置いた。
「これは?」と怪訝そうに問う彼女に、「紹介状」と答える。
153: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:02:43.29 ID:sg2qAd8w0
テレビ局に入ると、ちょうどスタジオから白菊ほたるが出てきたところだった。撮影は中止になったらしい。
少し離れて後を追う。建物の外に出て少し歩いたところで、白菊ほたるが思い出したように携帯電話を取り出し、どこかにかけ始めた。
話しながら、今にも卒倒してしまいそうに顔色を失う。やりとりを聞かなくても、良い内容ではないというのは十分にわかった。
通話を終えた白菊ほたるが夢遊病者のような足取りで公園に入る。公園には彼女の他には誰もいなかった。
154: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:03:51.94 ID:sg2qAd8w0
太腿のあたりに激しい衝撃が走り、体が宙に浮く。
視界が揺れる。体がアスファルトの上をすべり、皮膚が裂ける。
地面に倒れ伏して数秒経ってから、やっと車とぶつかったのだと気付いた。
体が思うように動かなかった。痛みはない。代わりに、傷口らしきあちこちに痺れのようなものを感じた。
意識ははっきりしている。少し離れたところで、車が路肩に停車し、運転席から男が飛び出してくるのが見えた。
155: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:05:16.63 ID:sg2qAd8w0
運転手の男の手を借りて、道の端のほうに避難する。しばらくして救急車とパトカーがやってきた。
運転手の男が警官と話をしている。
救急隊員が白菊ほたるを見て、「ご家族ですか?」と言った。
156: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:06:46.40 ID:sg2qAd8w0
*
書類手続きを終えた次の日、トレーナーの青木聖さんに白菊のレッスンを依頼をした。
レッスンを担当するトレーナーは、そのアイドルの技量に応じて変わる。聖さんは通常、新人を受け持つことはなかったが、このときは無理に頼み込んだ。白菊の実力はいかほどのものか、どうせなら厳しいトレーナーを当てて試してみたかったからだ。
157: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:07:36.00 ID:sg2qAd8w0
書類仕事に追われて時間を忘れ、気が付けばすっかり日が暮れていた。
そろそろ帰るかと腰を上げ、ふと思い出す。帰る前にひと声かけるようにと言っておいた、白菊が顔を見せていない。
忘れてそのまま帰ってしまった?
それならそれで構わない。しかしあの子は不幸体質なのだ、なにか突発的な事故があったのかもしれない。それとも、無理をしすぎて倒れてしまったのか。
158: ◆ikbHUwR.fw[sage]
2018/06/28(木) 01:08:32.76 ID:sg2qAd8w0
(本日はここまでです)
159:名無しNIPPER[sage]
2018/06/28(木) 21:37:50.19 ID:FkK+31YX0
乙です
いいね、プロデューサーもやはり曲者だったか
160:名無しNIPPER[sage]
2018/07/03(火) 12:46:41.72 ID:EGErunWGO
面白いねこれ
続きに期待
202Res/248.44 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20