白菊ほたる『災いの子』
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151: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 00:59:33.52 ID:sg2qAd8w0
 あの事務所にはひとりだけ、それなりの人気を博しているアイドルがいる。

 彼女の予定を調べ、仕事が終わってひとりで歩いているところに声をかけて名刺を渡した。
 君の活躍は知っている、しかしあの程度の事務所にいては先が見えている、君は本当はもっと大きな舞台に立てるはずだ、と適当に思いついた言葉を並べ立て、近くの喫茶店に誘う。
 彼女は黙秘権を行使するように口をつぐみつつも、後についてきた。

「引き抜き、ということですか?」

 飲み物を注文し、店員が離れていくのを見計らって、彼女が警戒心のこもった声で言った。

「そうなるかな。もちろん今の事務所に愛着があるのなら、無理にとは言わないけど」

「移籍したら、今より人気が出ると?」

「保証はできない」と言った。「君の努力次第だ」

 彼女は迷っているようだった。
 現状のままでも、稼ぎは十分にある。この誘いに乗ったら、今の誰もがちやほやしてくれる場所を捨てることになる。346なんて大手に行ったら自分なんてその他大勢のひとりではないか、居心地のいい事務所を捨ててまで応じる価値はあるのか、という葛藤が見て取れた。
 だが、アイドルなんて目指すような人間は虚栄心や自己顕示欲が強いものだ。彼女は逡巡のすえ、首を縦に振った。

「じゃあ、明後日の15時にもういちどここに来てほしい」

「明後日? いえ、その時間は仕事が入ってるんです。テレビの」

「すっぽかせばいい」

「怒られますよ。いくらなんでも」

「どうせ辞める事務所から怒られたって、どうってことないだろ」

 彼女は眉を寄せて考え込んだ。本当に事務所を移る意思があるかどうか、試されているとでも思っているのかもしれない。

「でも、なんて言えば……」

「君の事務所に、白菊ほたるって子いるよな」

「はい……明後日の、共演者です」

「その白菊さんには、ちょっとよくない噂がある。知ってるかな?」

 同じ事務所にいるのだから、当然不幸のことは知っているだろう。
 彼女がこくりとうなずく。

「だから、その子とはいっしょに出たくないとでも言えばいい」


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