157: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2018/06/28(木) 01:07:36.00 ID:sg2qAd8w0
書類仕事に追われて時間を忘れ、気が付けばすっかり日が暮れていた。
そろそろ帰るかと腰を上げ、ふと思い出す。帰る前にひと声かけるようにと言っておいた、白菊が顔を見せていない。
忘れてそのまま帰ってしまった?
それならそれで構わない。しかしあの子は不幸体質なのだ、なにか突発的な事故があったのかもしれない。それとも、無理をしすぎて倒れてしまったのか。
彼女がそこにいないことを願いながら早足で通路を進み、第3レッスン室に向かう。部屋には、まだ明かりが灯っていた。
薄く開いたドアから中を覗き込み、背中にぞくりと冷たいものが走る。獣じみた荒い息をつきながら、白菊が踊っていた。
初心者用の、決して難しくはないダンスだ。しかしそれは、昼間見たものとは比べ物にならないほどの、美しく、洗練された動きだった。
手を抜いていたのか、と一瞬思い、そうではないと気付く。あれは練習の成果なのだと。
もう、いったい何時間そうしていたというのだろう。彼女のレッスン着は濃く変色し、全身からぽたぽたと雫を滴らせている。
足元には、流れ落ちた汗で大きな水たまりができていた。
昼間に抱いた感想は、てんで見当外れなものだったらしい。
やる気や根性があるなどという話ではない。この娘は、異常だ。
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