2: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 22:37:35.20 ID:0nbIURfu0
「ですからどうして駄目なんですか! 納得のいく説明を求めます!」
タブレットを握りしめた腕をぴんと伸ばし、椅子に座っている僕を少しだけ見下ろすような姿で、彼女が怒っている。
僕を貫いている視線には、彼女らしい強い意思がここぞとばかりにぎゅっと詰め込まれ、その話し方には、彼女を良く知る者であれば疑いはしない聡明さが感じられる。
3: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 22:43:33.56 ID:0nbIURfu0
橘ありす。
兵庫県出身の12歳。
歌や音楽への興味を切っ掛けにアイドルを始めただけあって、歌唱力には目を見張るものがある。
4: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 22:46:39.71 ID:0nbIURfu0
炎上した。
未遂なんて言葉で濁してはいるが、あれは紛れもない炎上だった。
匿名のアカウントから届く大量の無責任なアドバイスを前に、彼女は僕としたリプライ機能使用禁止の約束の事も忘れて、スマートフォンに噛り付いて行ったネットユーザーとひたすら議論をし続けた。
5: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 22:52:02.10 ID:0nbIURfu0
ありすの気持ちはとても良くわかる。
なぜならば、画面の向こうで完全に門外漢の話を振られている文香はいつも辛そうで、そして苦しそうな表情をしているのだ。
利口なありすには、自分が文香の隣にいることが出来れば、どれほど彼女の助けになるのか分かってしまうのだろう。
6: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 22:53:55.13 ID:0nbIURfu0
「突然Pちゃんがみくの目をじーっと見つめるから何事かと思ったのに、ネコミミを見てただけだなんて酷いにゃ……」
「いや、それを突き付けて来たのは前川じゃんか……」
話がしたい、と半ば無理やりみくを連れてきた喫茶店で、僕はメニュー表を押し付けながら彼女の機嫌を取っていた。
7: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 23:14:20.88 ID:0nbIURfu0
「ほら、ゲームばっかりやってないで、ありすもインタスグラムを始めるんだ!」
「嫌です、それと橘です。 なんで私がそんなことをしないといけないんですか!」
そもそも私とのお話はどうなったんですか、あと、あんなのはSNSとして邪道です、などどとありすに勢いが付き始めた一方で、みくのテンションが目の前でどんどん下がって行っているのを感じた。
8: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 23:18:20.72 ID:0nbIURfu0
「なるほど。納得できない理由も沢山ありましたが、文香さんと得意分野が被ってしまうのはよくない、という理由であれば納得できます」
ありすは知識に偏りがちなので写真を撮ってSNSに投稿するのは見聞を広げるきっかけになるかもしれない、ありすのスケジュールを考えるとブログ用の文章を考える時間を確保するのは難しいのではないか。
そんな理由をいくつかでっちあげてみたものの、ありすの気持ちにはほとんどが響かなかったようで、妥協点へたどり着くまでに三回の追加オーダーを要した。
9: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 23:23:26.14 ID:0nbIURfu0
ありすの後姿をモノクロに加工した写真のとなりには、数週間前からわずかにだけ増えた数字が並んでいる。
スマホの中に彼女の日常と一緒に小さく収まっているそれが、彼女の、橘ありすのインタスグラムのアカウントだった。
「あの、最初から私であることを公にするんじゃなくて、最終的に私だって気付いてもらえるようにしたいんですけど」
10: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 23:25:38.44 ID:0nbIURfu0
「へー、なるほどね。ありすちゃんがインタスグラムかぁ」
「あたし達もやってるんだよね。ありすちゃんアカウント教えてよ」
そう言って二人が開いたアカウントには、ありすのそれとは違って数十万を超えるファンが付いていた。
11: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 23:27:24.06 ID:0nbIURfu0
この写真を撮影してアップするだけできっと、人気アカウントへの仲間入りなんて優にかなうと思うのだけれども、ありすはそれを良しとはしないのだろう。
「プロデューサーさん、遊んでないでこっちで一緒に考えてください」
ここで素直に僕を頼れるようになったのは、彼女の一つの成長の形だろう。
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