9: ◆E055cIpaPs
2018/04/21(土) 23:23:26.14 ID:0nbIURfu0
ありすの後姿をモノクロに加工した写真のとなりには、数週間前からわずかにだけ増えた数字が並んでいる。
スマホの中に彼女の日常と一緒に小さく収まっているそれが、彼女の、橘ありすのインタスグラムのアカウントだった。
「あの、最初から私であることを公にするんじゃなくて、最終的に私だって気付いてもらえるようにしたいんですけど」
そう主張する彼女の後姿を、僕は不安そうな顔をしたみくと一緒に撮影したのだ。
けれども、こうやって不安そうな顔でパンケーキの写真を高い角度から撮影しているのを見ていると、やはり諌めるべきだったのではないかと思ってしまう。
そもそも、学園生活とアイドル生活の二足のわらじを履いている彼女にとってはプライベートとも言えるような時間なんてほとんど無いのだ。
そこからアイドルとしての彼女に結びつかない情報や、彼女の私生活に結びつかない情報からはじき出された写真では、彼女と言えどもネットに毎日のようにアップロードされる大量の写真の中に埋もれてしまう。
「私が調べたとおりだと、こうやって撮った写真はインタスグラムで評価されやすいということなんですけど」
そう言った彼女のスマホ画面の中には、SNSではもう見慣れたお手本のような90度の角度から撮影したパンケーキの写真があった。
申し訳程度に添えられた苺が彼女らしいと言えば彼女らしいのだろうか。
彼女にインタスグラムを進めたのは僕なのだ。
だから、もっと僕が彼女を立派なインスタグラマーへと導かなければならない。
けれども、どうすればいいのだろうか。
インタスグラムは、きっと理論よりも感性の文化だ。
事実、フォトジェニックな写真をアップする芸術家やトップアイドルを抑えて、この文化のランキングトップに君臨しているのは、いわゆるお約束を無視した投稿をし続けている女性芸人である。
だから、そうじゃないのだ。
理屈では無い、そのことを理論立てて彼女に説明するにはどうすればよいのだろうか。
そうやって頭を悩ませていると、近くから、とても聞きなれた声が聞こえてきた。
「へえ、綺麗に撮れてるじゃん★」
「美味しそうだね、あたしもコレにしよっかな?」
ふとそちらに振り向くと、なんとタイミングの良いことだろうか。
城ヶ崎美嘉と北条加蓮がとても嬉しそうな顔でこちらを見ていた。
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