1: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:47:25.32 ID:FQ763ukmo
道明寺歌鈴ちゃんのSSです。
SSWiki : ss.vip2ch.com
2: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:48:45.84 ID:FQ763ukmo
お正月というのは誰にだって特別な日で、それはもちろん私にだって。それと同じように誕生日、というのも同様に特別な日だと思います。
3: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:50:10.86 ID:FQ763ukmo
私は誕生日がお正月というのもあってまず最初に祝われるのはお正月なことが多かったです。それに私のお家は神社なこともあって年末年始は非常に忙しくなります。そのためか最初に言われるのは「あけましておめでとう」でした。
いや、というわけではありません。おめでたいことですから。でも私の気持ちとしては「お誕生日おめでとう」と真っ先にかけて欲しいと思っていました。
だけどあの日、お正月に私に手を差し伸べてくれたプロデューサーさんに出会ってからそんな私の些細なお願いが叶って、それだけじゃなくて、毎日がとっても楽しいことで溢れました。あの人のそばはいつか聞いた聚楽という言葉のようです。
4: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:51:37.86 ID:FQ763ukmo
奇跡、そう奇跡だと思います。奇跡なんか起こりうることない。そんなことを言う人もいるかもしれません。それでも、あのお正月にプロデューサーさんと出会うことができたのは、きっと神様が私に授けてくれた誕生日プレゼントのような奇跡なんだって信じています。
……もっとも、プロデューサーさんはどう思っているのかは分かりませんけど。
5: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:53:14.75 ID:FQ763ukmo
──
仮眠から目が覚めました。はだけてしまった巫女服を直してから見渡したお正月の空は青く高く澄んでいます。拝殿の方からは喧騒と鈴の音が聞こえてきました。大晦日からお手伝いにと駆り出されてクタクタだったので、少し落ち着いたからと休ませてもらっていましたが、眠っている間にまた忙しくなったようです。ふと視線を向けた机の上にはおにぎりが置いてありました。起こさないでくれたんだ、と思いながら「いただきます」と手を合わせて手早く食べました。まだまだこれから忙しくなるというのにあんまり悠長にしているわけにはいきません。これでも私だって頼りにされていますから。
6: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:54:56.87 ID:FQ763ukmo
社務所に入り、中で慌ただしそうに動く巫女さんたちに入りますと声をかけました。ほっとしたような顔をしてお礼を言われました。
それからはあっという間に時間が過ぎました。たくさんの人がやってきてドジなんてする間もないくらい忙しく、目まぐるしいという言葉の通りでした。
そんな繁忙も一段落した折、男性がこちらを見ているのに気付きました。お正月だというのにスーツを着ているから、ということもあったのでしょうか。非常に目立っていました。珍しいなぁ、とぼんやりその男性を見たら案の定、というべきか、やはりというべきか目が合いました。目が合って、ぺこりとお辞儀をするとはにかみながら会釈を返されました。
と、思ったらその男性がこちらへと。『ああ、迷っていたんですね』と一人合点して、どうかしましたかと声をかけました。
7: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:56:17.08 ID:FQ763ukmo
「社務所ならあちらですよ?」
拝殿は流石に分かると思ったので社務所の方を示してみましたがそうではなかったようです。やんわりと否定した後、背広のポケットを手探りでまさぐり、なにか名刺ほどの大きさの紙を取り出したと思ったらそれを私に差し出して、
8: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:56:55.43 ID:FQ763ukmo
「はぁ……どうしよう……」
溜め息を吐きながら漏らした言葉はどこかに消えました。ちゃぷんとお湯を手ですくってみても考えはまとまりません。口元まで湯船に浸かって、ぶくぶくーっと息を吹いてみました。勢いよく現れた泡は見る間に水面を揺らす波紋へと変わっていきました。
9: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:57:58.03 ID:FQ763ukmo
「アイドルかぁ……」
だらりと脚を伸ばして天井を見上げました。アイドルに憧れていないと言ったらそれは嘘になるのでしょう。テレビの中で歌って踊るキラキラとした姿に憧れるのは女の子ならみんな……というのは流石に言い過ぎでしょうけど、私は憧れていました。でも私はドジでのろまで。あのテレビの中や、ステージで見た女の子たちみたいに華麗に踊ることは難しいと思っていました。巫女舞でドジをしたことはないけど、きっとそれとは違う。
10: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 22:59:15.78 ID:FQ763ukmo
「……どうしよう」
私の中の天秤はアイドルをやりたいという気持ちに傾いていました。でもどこかで『私なんかがアイドルなんて』という私もいて。さっきからずっと考えが堂々巡りしてしまいます。バタバタと脚を揺らしてみても水面みたいに私の思考に波は起こりません。
11: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:02:58.36 ID:FQ763ukmo
──
12: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:03:42.05 ID:FQ763ukmo
「あっ、おはようございます!」
13: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:04:26.04 ID:FQ763ukmo
「あ、そういえば……なんでスーツ姿で神社に来たんですか?」
届いた紅茶にミルクを混ぜながら気になっていたことを尋ねました。新年の神社で浮いていたのが、紅茶へと注がれたミルクと何故か重なって見えたからでしょうか。
14: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:05:24.79 ID:FQ763ukmo
そうしてお互いに落ち着いたら、彼は事務所のことや契約したら東京で活動するために転校する必要があること、その場合は事務所が所有する女子寮に住むことができることなどを説明してくれました。ふむふむと頷きながら、所々難しいところはありましたが、それを言うと分かりやすく説明してくれたので問題はありませんでした。
その説明は私が思っていたよりもアイドルというのはキラキラしていないんだということを知らされました。それでも私にとっては今までの私の中の世界とは全く違っていて魅力的でした。
「……どうします?」
15: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:06:12.06 ID:FQ763ukmo
「直感……?」
首を傾げながら、でもその目は真っ直ぐで嘘を吐いているようには見えませんでした。『可愛かった』とかそういうような言葉が出てくるのかな、なんてドキドキして身構えていたせいもあってか、その返答に肩透かしをくらったような気持ちになりました。
ぽかんとした表情になっていたのでしょう。慌てて身振り手振りでなにかを言っていますがなにも入ってきませんでした。だって、そんな姿が取り繕っていなかったから。その姿を見る私もなんだか照れ臭くなって、私の心がこの人とならきっと大丈夫だと予感していました。
ふふっと笑いが漏れました。口元を手で隠してくつくつと。今度は彼の方がぽかんとした目を丸くしています。かと思えばバツが悪そうな表情になって外を眺めてしまいました。
16: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:07:12.24 ID:FQ763ukmo
──
17: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:08:51.58 ID:FQ763ukmo
「やっぱり混んでますね……」
「まあ仕方ないな、大晦日だし……」
18: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:10:12.05 ID:FQ763ukmo
参拝を終えた帰り道、繋いだ手をぶらぶらさせながら夜空を見上げると雲の切れ間からお月様が顔を覗かせていました。幻想的に見えて声が漏れました。それに釣られたように見上げたプロデューサーさんも同じように歓声を漏らしていました。
19: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:11:07.52 ID:FQ763ukmo
こんな道端で抱きつくなんてどうなのかな、って思いましたがおめでたい日だしきっと大丈夫、と何の根拠もないままに抱きしめました。
こんな場所で、とプロデューサーさんがきょろきょろ辺りを見まわしているのが分かります。
「……もうっ、私のことだけ見てくださいっ!」
20: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:11:48.62 ID:FQ763ukmo
何事かと首を傾げたプロデューサーさん。えいっ! と顔を近付けてそのまま唇と唇を重ね合わせました。驚いたように目を見開いたプロデューサーさんに向かって、「えへっ」と笑いかけて、
「わ、私からの新年のお祝い…ですっ!」
21: ◆u71RyimI2MeR[sage saga]
2018/01/04(木) 23:12:39.90 ID:FQ763ukmo
おしまい
ありがとうございました
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