北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 22:53:45.67 ID:vyCd+JK40
プロデューサーの指示により、アタシは今までのレッスンに出るのをやめ、ライブに向けたレッスンに取り組むことになった。
トレーナーさんは呼ばずに、レッスン室が空いている時間を使って部署内だけで行うらしい。
やはりネックとなるのはアタシの実力だけのようで、杏と乃々ちゃんに関しては、誰も、なんの心配もしていないようだった。
「とりあえずいつもみたいにやってみて」
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AAS
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 22:54:59.37 ID:vyCd+JK40
次に、アタシが歌う曲を決めることになった。
プロデューサーが見繕ってきた候補曲を流し、みんなで聴いて協議する。
CGプロには何度も所属アイドル同士でカバーしあい、ほぼ共有みたいな扱いになっている曲がいくつもある。その中から、曲の調子や振り付けの難易度、曲自体の知名度などを考慮して選択する。最初はアップテンポで有名なやつがいい、次は落ち着いた曲がいいかもしれない、と2曲はすんなりと決定した。さて、あとひとつはどうしようかと悩んでいたところ、
「あれ? これ、歌は?」
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 22:56:25.20 ID:vyCd+JK40
ライブで披露する曲が決定したことで、アタシは歌の練習も始めた。
「歌、うまいですね」
最初のボーカルレッスンのあと、乃々ちゃんが感心したようにつぶやくのを聞いて、少し嬉しく思った。ここに来てからちゃんと褒められたのって、これが初めてかもしれない。
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AAS
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 22:57:33.67 ID:vyCd+JK40
「前に双葉が『契約交わしたらアイドル』とか言ってたけど、俺はそうは思わない。最近はそうやって職業のひとつのような言われかたをしているけど、アイドルって本来は偶像って意味で、職種でいうならタレントってのが正しいんじゃないかな」
ある日、アタシのレッスンを見ていたプロデューサーが唐突にそんなことを言った。
「偶像って?」
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 22:59:42.17 ID:vyCd+JK40
ライブ当日、アタシたちはプロデューサーの運転する車に乗って会場に向かった。
会場となるライブハウスは地下にあった。階段は、すれ違うにもひと苦労しそうなくらいせまく、壁には見たことのないバンドのポスターがびっしりと張られていた。
プロデューサー・杏・アタシ・乃々ちゃんの順で一列になって階段を下りていく。一段下るごとに空気が冷えていくようで、この先は地獄にでも続いているんじゃないかと思った。
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 23:01:16.20 ID:vyCd+JK40
ガチガチに緊張してステージに向かうも、実際はお客さんなんて全然入っておらず、なにかの間違いでやってきたらしい、ほんの数人が、アタシになんてまったく興味がないという感じにちびちびとカクテルを舐めている。
――なんてことはなく、ホールは超満員だった。
スポットライトがステージを照らし、歓声が湧き上がる。
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 23:02:57.22 ID:vyCd+JK40
「み、みんなー、はじめまして!」
声がうわずった。いや、だいじょうぶ、大したことじゃない。
「……新人アイドルの、北条加蓮だよ。今日はデビューの日なんだ。みんな楽しんでってね!」
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 23:04:31.03 ID:vyCd+JK40
自分が特別な人間だと思いたかった。
昔のアタシは、すべてを貧弱な体のせいにしていた。
この体さえまともなら、アタシだってあそこに行けるのにと、テレビの中の輝く世界を夢見ていた。
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 23:06:04.46 ID:vyCd+JK40
最後の曲を歌い終えて、お客さんに一礼し、ふらつきながらステージを去る。
舞台袖にプロデューサーと、出番を控えて待機していたらしい乃々ちゃんがいた。
緑を基調にしたドレスをまとった乃々ちゃんの姿は、まるでおとぎ話から飛び出してきた森の妖精のようで、こんな状態だというのに、アタシは不覚にも少し、見とれてしまった。
ふだんは化粧はしていない乃々ちゃんだけど、今は薄くメイクをほどこしていた。元々色素の薄い肌がいつも以上に白く、なんだか触れようとしたら消えてしまいそうな儚さを感じる。
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◆ikbHUwR.fw
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2017/12/31(日) 23:07:58.68 ID:vyCd+JK40
プロデューサーの肩を借りて控室に戻ると、パイプ椅子に敷いたぬいぐるみの上で杏がすやすやと寝息を立てていた。この子はブレないなぁ、本当に。
「いいステージだったよ」
とプロデューサーが言った。お世辞だろうか。
以下略
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