北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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◆ikbHUwR.fw
[saga]
2017/12/31(日) 23:07:58.68 ID:vyCd+JK40
プロデューサーの肩を借りて控室に戻ると、パイプ椅子に敷いたぬいぐるみの上で杏がすやすやと寝息を立てていた。この子はブレないなぁ、本当に。
「いいステージだったよ」
とプロデューサーが言った。お世辞だろうか。
「見てなかったの? ひどいもんだったでしょ」
「夢を壊すようで悪いけど、新人アイドルのデビューのステージなんて、大した期待なんてされてないよ。今日の加蓮は、お客さんにとっちゃ、ただのオマケだ」
きっとそうなんだろう。
乃々ちゃんがステージに立っただけで湧き起こった歓声は、アタシが受けたそれよりも、はるかに大きいものだった。
「プロデューサーにとっては?」
「だから、いいステージだったよ。特に3曲目がよかった」
「……本当に?」
「へたくそだったけど」
「うるさいな」
アタシは笑った。へたくそだけどよかったって、どういうことよ。
「あ、着替えるか? 外出てようか?」
「んー……まだいい、もうちょっと着ていたいから」
「そっか」
「着替えといえばさ、杏起こさないでいいの? 準備するんでしょ?」
「双葉はそのまま出るって」
「そのままって……このまま?」
今の杏は完全に普段着だ。胸元に『必要悪』と書かれた白いTシャツにショートパンツ、靴なんてクロックスだし、髪もいつもの通り、メイクだってしていない。
「そいつは特別だから」
アタシはうなずいた。プロデューサーがどういう意味で言っているのかは知らないけど、杏が特別だということは、なんとなくだけどよくわかる。
ホールの歓声が控室にまで届く。乃々ちゃんのステージは盛り上がっているらしい。
「乃々ちゃんは、見てなくていいの?」
「森久保は、いかにステージに上げさせるかまでが問題だから、あとはなにも心配していない」
「ふうん……」
冷たいんじゃないかな、と思ったけど、これも信頼のあらわれなのかもしれない。
……しかし杏はよく寝るね。
アタシが眠る杏のほっぺをつついて遊んでいると、プロデューサーがぽんと手を打った。
「新人アイドルのデビューステージなんて、顔と名前を覚えてもらえたら上等ってなもんだ」
「うん? なにを突然?」
「せっかくだから、もう少し覚えていってもらおう」
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