北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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44: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 23:09:35.68 ID:vyCd+JK40
 しばらく経って、乃々ちゃんが控室に帰ってきた。

「じゃあ、行っといで」

「……ホントにいいの?」

「いい、だいじょうぶ」

 アタシは控室を出て、再びステージに向かって行った。眠ったままの、杏を乗せた台車を押して。

 薄暗い中、ステージ中央までたどりつく。スポットライトがぱっと点灯し、割れんばかりの歓声が響き渡る。

「んがっ」と声を上げて、杏が目を覚ました。

「えっ……なにこれ? ステージ?」

 杏はきょろきょろと辺りを見回し、台車の取っ手を握ったアタシに目を止めた。

「あのやろー」

 と杏がつぶやく。察しのいいことに、もうこの状況を作った犯人に思い当たったらしい。

 台車からおりた杏は、マイクに向かって「おはよう」と言った。
 客席から、「おはよう!」と怒号のような声が上がる。この場に来ている全員が叫んでいたと思う。アタシが受けた歓声なんか比べ物にならない、乃々ちゃんが受けていたものよりも遥かに大きい。

「えっとね、杏を運んできてくれたのは、新人アイドルの加蓮ちゃんだよ。……てゆーか、さっき歌ってたんだよね、杏は寝てたけど。杏のかわいい後輩だから、みんな覚えてってね。ハイ、かーれーんー」

「かーれーんー!!!」

 お客さんが唱和し、アタシは立ちすくんでしまった。これほどの音量で自分の名前を呼ばれたことなんて、今までの人生で一度もない。

「手ぐらい振ってやりなよ」

 杏がマイクを通さずにささやく。
 アタシは慌てて客席に向けて手を振った。再び歓声が湧き起こる。

「じゃ、じゃあアタシはこれで……」

 と台車を押して楽屋に戻ろうとすると、

「あ、それは置いてって、帰りも乗せてもらうから」

 杏がわざわざマイクに向かって言って、客席からパワハラだなんだとヤジが飛んだ。

「うっさいな、芸能界は上下関係が厳しいんだよ」

 ファンと掛け合いを続ける杏と台車を残して、アタシはそそくさと舞台袖に逃げ出した。
 プロデューサーがニヤニヤと笑いながら立っていた。

「少しは印象強まったろう」

「あとで杏に怒られるよ」

 それから、アタシとプロデューサーは、並んで杏のステージを観た。少し経って、着替えを済ませてきた乃々ちゃんが加わった。



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