北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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45: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 23:11:09.83 ID:vyCd+JK40
「あいつは参考にするな」

 プロデューサーが言った。

「できるわけないよ」

 アタシは笑いながら答えた。

 杏の振り付けは、どうやら運動量を極限まで減らすことをコンセプトにアレンジされている。横から見ているからわかった。お客さんの位置からだと、おそらく気付けない。杏の手足は、客席から見えない部分では動きを止めてサボっているのだ。
 いくら体力の節約といっても、ひとつひとつの効果は微々たるものだろう。それでいて、あれは間違いなく、ふつうに踊るよりも遥かに難しい。あれを真似するぐらいなら、走り込みでもして体力をつけるほうが、よっぽど簡単だろう。
 あれを思いついて、しかも実践できてしまう人間が、他にいるだろうか。

「杏って、何者?」

「加蓮は、アイドルランクって知ってるかな?」

「……知ってる」

 それは観客動員数、CDの売り上げ、メディアの出演回数などでアイドルをランク付けしたものだ。
 元々は、あるアイドル雑誌が勝手に作ったものだけど、ランキングの基準となる計算式を公開しているため不正の余地がなく、今や業界全般でこのランクが指標として使われているらしい。

「双葉はCランクアイドルだ、森久保はDランク」

「うそ」

 Cランクといったら、テレビなんかにも出るようなアイドルだ。世間ではCとDのあいだが大きな壁とされていて、大雑把に言えばCより上だと一般人にも知られているアイドルということになる。本当に杏がCランクなら、アタシが知らなかったはずがない。

「少し前に、あいつの担当プロデューサーが『Cランクになったら長期休暇をやる』とか言って、当時の双葉はEランクだったけど、その次の集計期間だけものすごい働きを見せてCランクの基準満たしたんだってさ。世にも珍しい飛び級だ、笑っちゃうよな」

「笑いごとじゃないし、色々言いたいことはあるんだけど、あいつの担当プロデューサーって? 自分でしょ?」

「違うよ、双葉の担当は他にいる。森久保もだけど。まあ、そんなこんなで、やってくれたもんは仕方ないから、双葉は今休暇中なんだ。だけど、なぜか事務所にやってくる」



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