北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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41: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 23:04:31.03 ID:vyCd+JK40
 自分が特別な人間だと思いたかった。

 昔のアタシは、すべてを貧弱な体のせいにしていた。
 この体さえまともなら、アタシだってあそこに行けるのにと、テレビの中の輝く世界を夢見ていた。

 だけど現実は残酷で、アタシは特別でもなんでもなかった。
 外の世界に出てみれば、人並みのことすらできない、ただのおちこぼれだった。
 あの病室に戻りたいと思った。
 弱い体のせいにしていれば、ずっと夢を見続けていられたから。

 プロデューサーからスカウトされたとき、アタシは怯えた。
 アタシにはなにもないって、もうわかっていたから。
 これ以上、現実を突きつけられたくなかったから。

 杏や乃々ちゃんと遊び続ける日々で、アタシは幻滅する一方で、どこか安心もしていた。
 アイドルなんていってもただの人間だ、なにも特別なものじゃない。
 だから、アタシも特別じゃなくていい、なんのとりえもない女子高生でもいいんだと、そう思えたから。
 そうやって、ぜんぶあきらめてしまえば、楽だったから。



『がんばってなんとか3曲かな』



 ふいに杏の言葉が頭をよぎり、アタシは衝動的に唇の端を噛み切った。
 痛かった、予想よりずっと痛い。でも、おかげで目は覚めた。

 嫌だな、と思った。

 だって、そんなこと言われて、たったの3曲も歌いきれなかったら、まるでアタシが、がんばっていないみたいじゃない。

 口の中に血の味が広がる。あいかわらず呼吸はキツいし、体に力が入らない。
 たぶん最後の曲はまともに歌いこなすことはできない。それでもいい。

 それでもアタシは、特別でありたい。

 アイドルの歌やダンスに必要な水準は、実はそんなに高くない。
 本当に求められているのは、それ以外のなにか、だったよね。



 それならアタシは、自分の中に、その『なにか』があるって願うよ。



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