北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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◆ikbHUwR.fw
[saga]
2017/12/31(日) 22:59:42.17 ID:vyCd+JK40
ライブ当日、アタシたちはプロデューサーの運転する車に乗って会場に向かった。
会場となるライブハウスは地下にあった。階段は、すれ違うにもひと苦労しそうなくらいせまく、壁には見たことのないバンドのポスターがびっしりと張られていた。
プロデューサー・杏・アタシ・乃々ちゃんの順で一列になって階段を下りていく。一段下るごとに空気が冷えていくようで、この先は地獄にでも続いているんじゃないかと思った。
「今から緊張してちゃもたないよ」
前を行く杏が、振り返りもせずに言った。
せまい通路を抜けてホールに出る。床も壁も剥き出しのコンクリートで、武骨で寒々しく感じた。壁からところどころボルトみたいなものが突き出ていた。人が触れることはできないような高い位置にしかないから、あえて飾りとしてそういうふうに作られているのかもしれない。壁際にバーカウンターがあり、反対側にステージがあった。
ステージ、ここで歌うんだ、アタシが。
控室はせまく、薄暗かった。ステッカーや落書きで埋め尽くされた壁に、大鏡が一枚かかっていた。それと、少しタバコ臭い。
杏が組み立てたパイプ椅子にぬいぐるみを乗せ、寝心地のいいポジションを模索していた。開演を待つあいだに乃々ちゃんが2回逃げ出し、プロデューサーが2回連れ戻した。
アタシはプロデューサーを外に追い出し、用意された衣装に着替えた。白を基調に、水色と紺のアクセントが入ったドレス、白い手袋とオーバーニーソックスとチョーカーとショートブーツ、それらを身に着け、鏡に映す。雑誌なんかでも見たことのある、CGプロの看板のような共通衣装だ。いちど事務所で試着もしているけど、これから本当にこれを着て舞台に上がるんだと思うと、妙に胸がときめいた。
コンコンとノックの音が響き、「着替え終わった?」とプロデューサーの声がする。
アタシは返事の代わりに控室のドアを開けた。
プロデューサーは、「ほう」と息を漏らし、アタシを頭のてっぺんから足までじっくりと眺めた。
なにか感想でも言ってくれるのかな、と少しだけどきどきしながら待っていると、「靴は問題ない?」と訊いてきた。
「靴?」
「そう、靴が合ってないとパフォーマンスに関わってくるから――」
アタシはプロデューサーの鼻先で思いきりドアを閉めてやった。
もっと他に言うことはないのか、仕事人間め!
と、心の中で毒づいて、なんだか笑いだしそうになってしまった。仕事人間だって、あのプロデューサーが。
もういちどノックの音が鳴り、ドアの向こうから「加蓮」と声がした。
アタシはそのままドア越しに、「なに?」と訊き返した。
「そろそろ開演時間だ」
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