北条加蓮「アタシ努力とか根性とかそーゆーキャラじゃないんだよね」
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37: ◆ikbHUwR.fw[saga]
2017/12/31(日) 22:57:33.67 ID:vyCd+JK40
「前に双葉が『契約交わしたらアイドル』とか言ってたけど、俺はそうは思わない。最近はそうやって職業のひとつのような言われかたをしているけど、アイドルって本来は偶像って意味で、職種でいうならタレントってのが正しいんじゃないかな」

 ある日、アタシのレッスンを見ていたプロデューサーが唐突にそんなことを言った。

「偶像って?」

「崇拝の対象。宗教のご神体みたいなもの。だからアイドルってのは、人間として見られていないってのが本来の形なんだ。歌や踊りってのは人間の技だから、アイドルの本質はそこにはない」

「……よくわかんない」

「アイドルの歌やダンスに必要な水準なんてものは、実はそんなに高くないってことだよ。すごい技術を味わいたいのなら専門の歌手の歌を聴いたほうがいいし、本職のダンサーのダンスを観ればいい。アイドルがファンから求められられてるのは、本当はそういうものじゃない」

「じゃあ、本当に求められてるものって、なに?」

「それ以外のなにか」

「なにそれ」

「人それぞれかな。ただそれは、少なくとも、ただの優れた技術ではないってこと」

 たぶんそれは、アタシへの気休めだったのだと思う。
 それなりに歌が上手いといっても、『素人にしては』という、ただし書きがつく程度のものだし、ダンスに至っては、おそらく素人以下と言ってもいいレベルだ。

 でも、その一方でアタシは、神谷奈緒のことを思い出していた。
 偶然デパートで観た、彼女のデビューライブ。1曲だけしか観てはいないけど、それは決して上手いものではなかった。
 初舞台の緊張もあったのかもしれない、堂々とはしていたものの、明らかなぎこちなさが見て取れた。スカウトされるまで特別なにかをやっていなかったとすれば、レッスンを受けていた期間はほんの2週間かそこらのはずだから、当然といえば当然だろう。
 それでもアタシには、粗末なステージで一生懸命に歌い踊る彼女の姿が、昔病院のテレビで見たあのアイドルのように、キラキラと輝いて、まぶしく映った。

『それ以外のなにか』とは、あれのことかもしれない。



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