75: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:07:38.46 ID:/aq2I7elo
ありすは目に涙を溜め、吐き捨てるように続けた。
「それなんです、みんなそうです。プロデューサーの方も、言うんです。
珍しい名前の子がいて気になったって。
……そればっかり。誰も私をちゃんと見てくれない。
76: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:08:59.10 ID:/aq2I7elo
――――
珍しく、ありすは遅刻した。
朝礼の時刻にも間に合わず、一時間目が始まる直前にようやく教室へやってきた。
77: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:09:58.45 ID:/aq2I7elo
放課後。
「遅刻なんて、珍しいね」
「ええ、まあ……」
78: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:10:57.42 ID:/aq2I7elo
「朝は、……その」
「うん」
「上靴が、たまたま見当たらなくて」
79: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:12:17.86 ID:/aq2I7elo
「ありす!」
私の声は薄暗い廊下に響いて、ありすの足をやっと止めた。
彼女の後ろ姿は蛍光灯のわざとらしい白と、窓から射す青い夕闇が混ざり合って、消えかかったように見えた。
80: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:13:05.27 ID:/aq2I7elo
「大嫌い」
私は胸にしまいこむように、その言葉を繰り返した。
「大っ嫌い、大っ嫌い……」
81: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:14:27.32 ID:/aq2I7elo
朝――、出勤してすぐ、ありすの母親から電話がかかってきた。
体調を崩したので、ありすは学校を休む、ということだった。
「あ、……お忙しい中、連絡ありがとうございます。承知いたしました」
82: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:15:36.39 ID:/aq2I7elo
「なんでしょう?」と、私は言った。
「大変でしたよね、先生……」
ありすの母親はどことなく、躊躇いがちな口調で言った。
83: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:16:30.56 ID:/aq2I7elo
電話を切ったあと、なんだか涙があふれた。
箱ティッシュを使い切るほどの勢いで鼻をかむ私を、先生方が不思議そうに見ていた。
「いやあ、あの子たちも、もうすぐ卒業なんだなぁ、と思うと……」
84: ◆xJHI1D1Uro[saga sage]
2017/11/10(金) 17:17:44.82 ID:/aq2I7elo
――――
卒業式当日。
古くなった空の層が剥がれかかっているような曇天で、ひどく冷え込んでいた。
体育館には大きなジェットヒーターがいくつも置かれ、轟々と絶え間なく騒音が続いた。
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