1:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:30:29.25 ID:2O49l66V0
藤原肇さんと釣りに行くタイプのSSです。
・地の文
・P一人称
・短め
SSWiki : ss.vip2ch.com
2:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:31:42.38 ID:2O49l66V0
彼女がぷくうと頰を膨らませているのを見て、最近仕事に行かせてばかりでしばらく話せていなかったな、と俺はようやく思い出せた。
3:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:34:13.42 ID:2O49l66V0
肇はとても、本当に、良い子である。
年頃の娘っ子だからと覚悟していたのに、一年ほどの付き合いの中でもとんと我が儘を言われたことがない。
その子が頰を膨らませて、「私は怒っています」と感情を露わにしているのだ。
4:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:35:16.98 ID:2O49l66V0
デスクの中にお菓子の一つでもないかとゴソゴソ漁って、ようやくミルク味の飴を発見した。
まあこれでも舐めてください、と献上したところ、俺の賄賂は彼女の口の中に納められた。
「お久しぶりですね」
5:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:36:39.29 ID:2O49l66V0
十六歳の女の子に本気で萎縮する成人男性は、情け無いったらない。
しかし、なんとまあ嘆かわしいことに、この業界ではさして珍しくない光景である。
同僚たちが担当に叱られてるのを見て笑っていたが、自分で経験するのは初めてだったのだ。
6:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:38:43.69 ID:2O49l66V0
「あのとき、レコーディングが終わったらオフを合わせて何処か行こうかと言ったのはプロデューサーさんでしたよね。でも、レコーディングが終わってから、プロデューサーさんのお休みと私のお休みが合わなくなって……それからもお互い忙しくてなかなか会えず……。これは、それぞれスケジュールがあるから納得もしました」
「そ、そうだよ、レコーディング終わって忙しくなったもの。仕方のないところだと俺は思うなあ」
彼女は今度、大々的にCDデビューを果たす。
7:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:40:05.92 ID:2O49l66V0
もう一度、今度は横目でカレンダーを見る。
明日、明後日と大きくはなまるが書かれていた。確かに書いたのは俺だった。
頰を膨らませた彼女が来たのも、もう休日となると嬉しくって、さあ明日は何をしようかとうきうきで残業をしていたところだったのだ。
8:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:41:08.09 ID:2O49l66V0
いや、おそらくはスケジュールを決めだしたころは覚えていたのだ。
そのつもりで休みを合わせた気がする。
ただはっきり言って、そんな約束をしたのも忘れていた。
9:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:41:51.23 ID:2O49l66V0
「釣りに行きます」
「おっそれはリフレッシュにぴったりだ、ヤマメですか、渓流に行きますか」
「今日は海ですね、七海ちゃんが、海も良いって教えてくれて」
10:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:43:18.42 ID:2O49l66V0
☆
俺のことに大半の人は興味が無いとはいえ、少しくらい自分のことを振り返ったって良いだろう。
大学生の頃はバンド活動をしていて、割と本気で曲を作り、活動していたのだが、どこのメジャーレーベルも俺たちを引っ掛けようと針を垂らすことはなかった。
11:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:43:59.19 ID:2O49l66V0
現在でもバンドマンだった頃の趣味は抜けず、聴く音楽の趣味も変わらず、服装も同様。
たまに曲を作る習慣も抜けず。
インドア趣味なおかげで、今回の釣りのようにアウトドアな遊びをするとなったら、どうしても音楽フェスに行くような……ハーフパンツと、寒さ対策にレギンスを履いて、という格好になってしまうのだ。
12:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:45:04.50 ID:2O49l66V0
この服装になると、肇と初めて出会った時のことを思い出す。
彼女の採用を決めた先輩に「この子の担当になってみない?」と軽めに言われて、「明日寮に来るらしいよ」と付け加えられた。
彼女が寮に来るらしい日はちょうど休みだった。
13:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:46:50.17 ID:2O49l66V0
彼女は一度、寮を真剣な目で見つめていた。
一つ深呼吸をしたあと玄関までの階段を登ろうとしたようだが、どうやらキャリーバッグが持ち上がっていなかった。
彼女が困り顔で辺りを見回しているのを、俺は走るフリをするのも忘れて、ボケっと見ていた。
14:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:48:01.54 ID:2O49l66V0
一目見ただけで、また夢を見た。
それは白昼夢と言っていいものかもしれなかったけれど、肇の黒い髪がライブのステージで揺れ、白いサイリウムの光に手を伸ばして歌う光景をはっきり見た。
素朴な雰囲気のあの子が、俺が作り出した舞台で、仕事で、欲を言えば楽曲で、白い花を大きく咲かせたように素敵に着飾る姿を、確かに見たのだ!
15:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:49:12.39 ID:2O49l66V0
今思えば肇には随分怖い思いをさせたと思う。
なぜあの時「君のプロデューサーです」と切り出せなかったのか。
いや、それを言っても怖がらせてしまったかもしれない。ただ、もう少しやり方はなかっただろうか。
16:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:50:30.89 ID:2O49l66V0
さて、着替えも終わり、軽自動車に乗り込む。
学生時代からの相棒に久しぶりに火を入れると、なんとか元気な様子で安心した。
ギアを入れアクセルを踏むと、ボロロロという音がした。
17:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:51:35.65 ID:2O49l66V0
☆
寮の前に車を停めると、既に肇は表に立っていた。
18:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:53:26.64 ID:2O49l66V0
門前には五十嵐さんも立っており、俺たちを見送りに来たようだった。
いくらか手伝ってもらいながら、彼女にそっと耳打ちをされる。
「深夜、ふたりきり。いいですかっ、変なことはなしですよ」
19:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:54:34.74 ID:2O49l66V0
積み込みが終わり、俺が運転席に乗り込む。
「後ろに乗りなよ」
と肇に言ったが、肇は澄まし顔で助手席に乗り込んだ。
20:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:55:31.67 ID:2O49l66V0
ガソリンスタンドは割とすぐそこにあり、セルフのスタンドだったことに安心する。
「目的地はどこ?」
「神奈川の、東扇島西公園……というところです。海釣りの場所は詳しくないのですが、調べたところそこで釣りができるらしくて」
21:名無しNIPPER[saga]
2017/10/10(火) 02:57:04.42 ID:2O49l66V0
コンビニに寄りコーヒー、エナジードリンクと、サンドイッチなどを買い込む。
煙草を一本吸ってから車内に戻ると、肇が顔を顰める。
「臭いですよ」
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