3:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:02:30.48 ID:ZNhdxt+t0
『……紬?』
遠くの方からこちらへ向かって歩いてきているのは白石紬。私たちの愛すべき同僚。
彼女は相変わらずの透き通るような、艶のある長髪をしていて人ごみの中でも目立っていた。と言ってもそれ以上に目立つ要因はあったけれど。
紬の行動を一言で描写するんだったら……そうやな。
4:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:03:07.95 ID:ZNhdxt+t0
風にそよいで揺れるのは、えぐいカーブのツインテール。アンテナのようにふらふらしとる……紬の視線みたいやな。
背中しか見えないから断言はできないけれど、両手に構えているのはカメラ。
相変わらずやなぁ、と思いつつ私は声をかけた――――私の恋人に。
ついでに、ついさっき買ったばかりのペットボトルを取り出して、
5:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:03:51.52 ID:ZNhdxt+t0
『な、奈緒ちゃんでしたか。誰かと思いましたよ……』
振り返った彼女の姿は一言でいうと、地味。多分人ごみに紛れるためだったりするんやろな。
まあ、漫画の世界みたいに電信柱に身をひそめる奴なんて目立ってしょうがないやろうし、あんまり意味もない気がするけどな。
6:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:04:18.34 ID:ZNhdxt+t0
『彼女とのデートを断っておいて、ほかの女のケツを追うなんて悪いやっちゃのぅ〜、亜利沙』
『そ、それは悪いと思ってますけど。でも紬ちゃんが外出するって情報を掴んじゃったから、つい……』
やっぱり、という感じ。
亜利沙がこういう目立たないコーディネートをして(といってもそのツインテールの時点で無駄やと思うんやけど)ベタベタな尾行をして、両手にはカメラ。近くには紬。
7:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:04:44.70 ID:ZNhdxt+t0
ぎゃーぎゃー、わーわー。
私たちの様子を簡潔にあらわすとそんな感じなんやろうな、とか思いつつ。軽い口争いに。
私だって本気で怒ってるわけじゃないんやけど、でも言わずにはいられないというか。きっと亜利沙もそんな感じなんやろうけど。
と、いつ終わるかもわからないそんな諍い。
そこへ水を差したのは、冷静なトーンの一言。
8:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:05:37.46 ID:ZNhdxt+t0
お手洗い行ってきますね、と亜利沙が言って席を離れてしまった。
私の視線の目的地は行方不明で、なんとなくテーブルの上の大きいアルバムを突き刺す。
「ありさの秘蔵アルバム第二十二章、とか言うてたか」
9:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:06:20.44 ID:ZNhdxt+t0
「嫉妬……いや、寂しいというか。うーん」
こうやって人間関係に頭を悩ませるなんて初めてかもしれん。いや、言うなら……。
こんな気持ちが私の中に眠っていたなんて思っていなかった。
亜利沙に出会えたことでいろいろな楽しかったり、胸焦がれるような思いをして。でもこんな胸がぐるぐるするような思いを抱えるなんて思わなかった。
10:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:07:11.96 ID:ZNhdxt+t0
さっきのアルバムに比べて格段に薄い。デザインはさっきのアルバムに比べて綺麗で、リボンのレースなどで彩られている表紙が印象的だった。
タイトルも書いてあるけど、読めんな……。筆記体、苦手やねん。
そんな風に秘密めいていたんやから、それを私が開いてしまうのも無理はない。関西人やからな。言うて未来とか環も同じことするやろ?
好奇心に背中を強く押されて、私はそのアルバムを開いた。
そして、すぐに気づく。
11:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:07:37.99 ID:ZNhdxt+t0
「…………」
「…………」
カフェを出て帰り道を歩く。
夕焼けの中、画になりそうな情景なのに会話も特にない。
12:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:08:11.29 ID:ZNhdxt+t0
「あ、亜利沙」
「ひゃ、はい」
注意したのに喉から洩れた声はみっともなかった。亜利沙もやな。気が合うなあ、私たち。
そんなことを思うと、ちょっと面白くなって笑ってしまう。くくっ、と抑えようとしても止まらない。
13:名無しNIPPER
2017/09/10(日) 23:08:40.30 ID:ZNhdxt+t0
さっきまでのどろどろとした予感を押しのけて、私はそんなまっすぐな感情が生まれるのを感じていた。
自分の彼女が他の女に注目してれば嫌な気持ちになって、自分を見てくれれば喜ぶなんて単純やな、我ながら。
十分笑って、気持ちも吐き出して。
そんなさわやかな気分で亜利沙に向き合ってみる。
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