3: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:09:24.45 ID:yFIcZ1s10
―――――
「おはよう、志保。今日も相変わらずだな」
「愛想がないとでも言いたいんですか」
「まさか。だが、そう思うなら改善してみるのも手じゃないか?例えばほら、この前の小学生メイドとかみたいに――」
4: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:10:05.09 ID:yFIcZ1s10
対して、プロデューサーはといえば回答し終えたといわんばかりに、机に向き直っていた。カタカタとキーボードを叩いている。まだ始業の時間ではないはずなのに、何をしているのだろう。何故だか、ふつふつと興味が沸いてきた。
「何してるんですか、プロデューサーさん」
「ああ、これか?アイドル皆のデータベース……的な奴かな」
「……亜利沙さんの真似でも始めたんですか?」
「なんで微妙に刺々しいんだよ……お前たちの長所とか短所とかのデータまとめてるだけだよ。大事なんだぞ?これが外に漏れてみろ、オーディションとか勝てなくなってもおかしくないんだからな」
5: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:11:19.33 ID:yFIcZ1s10
「おはようございまーす!」
隔絶された私達だけの空間が、切り替わる。物音がした方を見ると、リボン姿がよく似合う大先輩がトコトコと歩いてくるところだった。
「おはよー、志保ちゃん!」
「おはようございます、春香さん」
春香さんはにこやかに笑う。不思議だ。この人の笑顔は、どうしてこんなにも人を引き付けるのだろう。私にも少しくらい、そんな才能が有ってくれればよかったのに。
6: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:11:55.95 ID:yFIcZ1s10
でも、絶対に悟られたくない。だから、なるべく自然な笑顔を装って――
「……ん?どうした志保」
――そう思っていても、彼は見抜いてしまうらしい。
「別に、何でもないですよ。まったく、プロデューサーさんが心配しすぎなんじゃないですか」
「そうか?困ったことがあったらきちんと俺に頼るんだぞ?」
7: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:13:48.61 ID:yFIcZ1s10
「おはよう、美希……危ないから突っ込んでくるのはやめろよ?」
「そんなの、ハニーが受け止めてくれるから問題ないって思うな!」
元気よく答えたもう一人の大先輩は、頬を彼の胸に押し当てて機嫌良さげに答えた。その姿は、さながら猫のよう。愛らしさに満ち溢れたその姿を、私はそれを心底妬ましく――
――え?私……み、美希さんになんてことを。
自分の思考が理解できない。自分が何をしたいのかが分からない。
8: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:15:22.50 ID:yFIcZ1s10
必死の思いで、言葉を絞り出す。
「何でもないです。ちょっと、今日寝不足なのかもしれないですね」
「寝不足なの?それは大変なの……今度、美希がキモチ良く眠れる方法をデンジュしてあげるね!」
「あ、ありがとうございます……ふわぁあ」
寝不足であることを強調するために欠伸する……誤魔化せただろうか?そう思って目をやると、春香さんは生暖かい笑みをこぼし、美希さんは同じように欠伸を零していた……ただ、彼だけは真剣な目つきで私を見つめていた。
9: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:16:12.55 ID:yFIcZ1s10
―――――
どうして、こんな風に。
胸の奥がズキズキと痛む。残念ながら、身体の表面とは違って心臓は触って慰める事なんて出来はしない。いや、心臓が触れたとしても私のこの痛みは癒えることはないのだろうけれど。
……すーはー、すーはー。
10: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:17:02.32 ID:yFIcZ1s10
―――――
1、2、3、4、1、2、3、4。
テンポよく身体を動かそうとする。けれど、身体はついてきてくれない。元から、運動神経は良くないかもしれないけど――
11: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:17:48.02 ID:yFIcZ1s10
―――――
「……ふぅ」
私は静かに壁にかけてある時計を見る。時刻は7時を指していた。この部屋に窓はないが、なんとなく身体が夜であることを感じ取っている。少し、肌寒くなったからだろうか?
今日も今日とで自主レッスン。競う相手などはいない。ここにいるのは私一人だ。それも当然だろう、皆と一緒に自主レッスンに取り組んでいたのでは、彼女達より上を目指すことなどできはしない。
12: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:18:32.53 ID:yFIcZ1s10
少し挑発するように、私は口角を上げてみせた。彼からしたら、私はお金を稼いでくる道具でしかない。そんな彼が、わざわざ自分の努力の外で育つのを止めるわけがない。そんな考えだった。
――なんでもいいから、邪魔をしないで欲しい。
そんな意図を分かっているのかいないのか、彼は黙ったままこちらを見つめる。そして、彼はゆっくりと瞬きをした後に、口を開いた。
「……志保、今日どれくらい踊った?」
「関係ないじゃないですか、そんな事」
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