【ミリマス】ライアー・ルージュ
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14: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:19:38.81 ID:yFIcZ1s10
 ――だが。
「ウソをつくな。志保、足痛めてるだろ」
「え?そ、そんな事は」
「良いから。座って待っててくれ。今、救急箱を用意する」
 そう吐き捨てると、彼は部屋の片隅にある棚から救急箱を取り出した。そして、私が何かを言う前に救急箱を持ったまま近づいてきて、しゃがみ込んだ。
以下略 AAS



15: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:20:05.50 ID:yFIcZ1s10
「なぁ志保。自主レッスンだからって遠慮する事はない。俺に声を掛けに来てくれよ。そうしたら俺が見るから、俺が見ている時だけに、レッスンの時間を限定してくれないか?」
「嫌です。時間が決められてたら、出来るところも出来なくなっちゃうじゃないですか」
「頼むよ。お前が下手に怪我するのなんて、俺は見たくないんだよ」
「別に、いつも怪我するって決まったわけじゃないでしょう」
 知らず知らずのうちに唇を尖らせる。少し、苛立ってきている自分を自覚しつつも、これ以上ちょっかいをかけられるのが耐えられなかった。
以下略 AAS



16: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:20:46.12 ID:yFIcZ1s10
―――――
 
 次の日、今日はいつもより早く来て自主レッスンをすることにした。丁度日曜日だったし、なによりもプロデューサーさんに邪魔されたくなかったからだ。
「……ホント、迷惑なんだから」
 心底嫌になる。あの人の事は、同期の子も先輩たちも信頼している。中には、恋愛感情だって持っている人だっているかもしれない。でも、私はどうしても好きになれなかった。
以下略 AAS



17: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:21:25.50 ID:yFIcZ1s10
 1、2、3、4……
 私は一心不乱に踊る。昨日のケガはまだ癒えきったとはいえないが、こんな所でへこたれてなんていられない。まだ踊れるのだから、やれるだけのベストを尽くさなくては。
 無心にリズムを取りつつ舞う。ダンスの得意なアイドルとはうってかわって、まだまだたどたどしいという自覚はあったけれど、それでも少しずつ上手くなっているのを感じていた。
 ――よし、これなら!
 汗の玉ばかり浮かんでいた顔に、喜びの表情が現れる。他の人が見ても、ほんの少ししか変わらないような成長も、今の私には宝物のように見えた。
以下略 AAS



18: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:22:13.29 ID:yFIcZ1s10
 彼は淡々と答えると、部屋の後方の壁に寄り掛かった。どうやら、このまま見続けるつもりらしい。その手には何かが握られていたが、私には何が握られているのかは見えなかった。
「……止めに来たんですか」
「止めになんてこないよ、志保が嫌がったからな。ただの観察だ、観察」
「……なんでですか?」
「プロデューサーが、担当のアイドルの能力を把握しようとするのはおかしいか?」
以下略 AAS



19: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:22:45.27 ID:yFIcZ1s10
 時計を眺める。8時30分。もうすぐ、集合時間になってしまう。シャワーを浴びたりする時間を考えれば、そろそろ切り上げる時間だ。
 振り返って、部屋から出ようとする。そこには、彼の姿はなかった。観察すると言いつつ、途中で帰ってしまったのだろうか。
 見ていて欲しいとは一片たりとも思っていなかったが、そそくさと帰ったというのは、それはそれでつまらないと鼻を鳴らす。私の踊りに飽きたから?そんな事を少し考えると、何故か無性に腹が立った。
 さぁ、もう引き上げ――
 「……えっ?」
以下略 AAS



20: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:23:13.51 ID:yFIcZ1s10
「もう、きちんとゴミ処理位はしてほしいわ……」
 私は、余計な観客に不平を零しつつ、それらを手に取った……よく見れば、下敷きになった紙には何か黒いインクがにじんでいる気がする。ここまで嫌がらせをするのだろうか。プロデューサーさんを拒んだ私を、彼は嫌ったのかも――
『サビのステップ・いつも半拍遅い。初動は早すぎるくらいに動いても構わないので、リズムを重視してステップを踏む事』
「……え」
 チラリと文字が視界を横切ると、今まで、彼への不平を浮かべる事で精いっぱいだった脳みそがリセットされた。その紙切れに目を近づけてみると、すべて私へのアドバイスで埋められていた。私はそれを必死に解読する。時折、黒ずんだ染みになっているだけの部分であっても、その貴重な一言一言は、私の胸に染み込んでいった。
以下略 AAS



21: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:23:43.50 ID:yFIcZ1s10

―――――

 あの後、私はプロデューサーさんに詰め寄った。こんな事をしてもらっては他の子と比べて不公平になる、そもそも私はこんな事を望んでいたわけじゃない。そう言われた彼は、少年のように目をそらして淡々と答えた。
「別にあれは俺が早く来たから暇つぶしにやっただけだよ。それに、志保を手伝ったんじゃなくて、俺がアイドルの分析をするために自主的に練習しているだけなんだから、志保に文句を言われる筋合いはないだろ?」
以下略 AAS



22: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:24:19.00 ID:yFIcZ1s10

―――――

 次の日。同じように早朝から劇場のレッスンルームに来ると、用意されたかのようにCDプレイヤーが置いてあった。中身を確かめると、確かに私に任された曲だった。
 ここまで露骨にやっておきながら、なお偶然と言い張るのか。憤慨しつつ私が勢いよく振り向くと、案の定、彼は音もなく壁の際に立っていた。
以下略 AAS



23: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:24:49.60 ID:yFIcZ1s10
 ――我ながら、なんてザマ。
 私は、静かに絶望していた。後ろに見ている人が居なければ、少し涙ぐんでいたかもしれない。
 久々の声出しは、 ボロボロだった。音程はずれているわ、リズムはガタガタだわ……しまいには、声量ですらまともに出せなかった。
 悔しさに身を震わせつつ、背後から見守っているであろう男の方を見る。すると、意外な事に人影は既になかった。仕方ない、あの出来だ。呆れられたとしても、私には何も文句を言うことは出来なかった。
 ――けど、もしかしたら。
以下略 AAS



24: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:25:23.52 ID:yFIcZ1s10
 メモ用紙には、私が感じていたような不安の箇所を罵倒するような事は何一つ書いていなかった。かといって不安から目をそらさせるような言葉は全くもって存在していない。そこに綴られていたのは、私の不安に感じた部分だけでない、すべての弱点と、それに対する対処法が明確に示されていた。
 ――悔しい。こんな事ばかり、書かれているなんて。
 唇を噛む。いつもより強く噛まれた唇からは、少し鉄の味がしたが、私は気に留める事はなかった。
 差し入れられた(置いて帰った、とは思わない)ドリンクを、数口分口に含んで飲みこむと、私はメモを持って元の場所へと戻った。
 ――絶対に、上達して見せる。いつか、見返してやるんだから。
以下略 AAS



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