23: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:24:49.60 ID:yFIcZ1s10
――我ながら、なんてザマ。
私は、静かに絶望していた。後ろに見ている人が居なければ、少し涙ぐんでいたかもしれない。
久々の声出しは、 ボロボロだった。音程はずれているわ、リズムはガタガタだわ……しまいには、声量ですらまともに出せなかった。
悔しさに身を震わせつつ、背後から見守っているであろう男の方を見る。すると、意外な事に人影は既になかった。仕方ない、あの出来だ。呆れられたとしても、私には何も文句を言うことは出来なかった。
――けど、もしかしたら。
折れそうな心は、昨日あれだけ拒絶した物を求めた。心のままに、私は彼が立っていたあたりを捜索する。
「あっ、これ」
今日もやっぱり置いてあった。地獄で蜘蛛の糸を見つけたような心境に至りながら、私はそのメモを手に取る。今日は結露するほど時間が経っていなかった為か、メモ用紙に綴られた文字が滲んでいることはなかった。
すでに何かでぼやけた視界を必死にクリアにしつつ、そのメモ用紙に目を通す。
「……あはっ」
声が漏れる。更に視界にフィルターがかかる。ここにはもう、私しかいないという思いが、ストッパーを緩ませたのだろうか。どんどん視界が曇る。
49Res/35.97 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20