【ミリマス】ライアー・ルージュ
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11: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:17:48.02 ID:yFIcZ1s10

―――――
 「……ふぅ」
 私は静かに壁にかけてある時計を見る。時刻は7時を指していた。この部屋に窓はないが、なんとなく身体が夜であることを感じ取っている。少し、肌寒くなったからだろうか?
 今日も今日とで自主レッスン。競う相手などはいない。ここにいるのは私一人だ。それも当然だろう、皆と一緒に自主レッスンに取り組んでいたのでは、彼女達より上を目指すことなどできはしない。
以下略 AAS



12: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:18:32.53 ID:yFIcZ1s10
 少し挑発するように、私は口角を上げてみせた。彼からしたら、私はお金を稼いでくる道具でしかない。そんな彼が、わざわざ自分の努力の外で育つのを止めるわけがない。そんな考えだった。
 ――なんでもいいから、邪魔をしないで欲しい。
 そんな意図を分かっているのかいないのか、彼は黙ったままこちらを見つめる。そして、彼はゆっくりと瞬きをした後に、口を開いた。
「……志保、今日どれくらい踊った?」
「関係ないじゃないですか、そんな事」
以下略 AAS



13: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:19:03.48 ID:yFIcZ1s10
 素っ気なく返す。だからなんだというのだろう。彼からすれば、無理にレッスンさせたというレッテルを貼られる事なく、予定以上にアイドルが成長してくれるのだからよい事ではないのか。
 だが、彼はそんな素っ気ない返答が気に入らなかったらしい。声をかけるかかけないか逡巡した後、静かに私に向けて言葉を投げてきた。
「体に不調はないか?」
「不調なんて出るようならすぐにわかりま――」
「どうした?」
以下略 AAS



14: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:19:38.81 ID:yFIcZ1s10
 ――だが。
「ウソをつくな。志保、足痛めてるだろ」
「え?そ、そんな事は」
「良いから。座って待っててくれ。今、救急箱を用意する」
 そう吐き捨てると、彼は部屋の片隅にある棚から救急箱を取り出した。そして、私が何かを言う前に救急箱を持ったまま近づいてきて、しゃがみ込んだ。
以下略 AAS



15: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:20:05.50 ID:yFIcZ1s10
「なぁ志保。自主レッスンだからって遠慮する事はない。俺に声を掛けに来てくれよ。そうしたら俺が見るから、俺が見ている時だけに、レッスンの時間を限定してくれないか?」
「嫌です。時間が決められてたら、出来るところも出来なくなっちゃうじゃないですか」
「頼むよ。お前が下手に怪我するのなんて、俺は見たくないんだよ」
「別に、いつも怪我するって決まったわけじゃないでしょう」
 知らず知らずのうちに唇を尖らせる。少し、苛立ってきている自分を自覚しつつも、これ以上ちょっかいをかけられるのが耐えられなかった。
以下略 AAS



16: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:20:46.12 ID:yFIcZ1s10
―――――
 
 次の日、今日はいつもより早く来て自主レッスンをすることにした。丁度日曜日だったし、なによりもプロデューサーさんに邪魔されたくなかったからだ。
「……ホント、迷惑なんだから」
 心底嫌になる。あの人の事は、同期の子も先輩たちも信頼している。中には、恋愛感情だって持っている人だっているかもしれない。でも、私はどうしても好きになれなかった。
以下略 AAS



17: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:21:25.50 ID:yFIcZ1s10
 1、2、3、4……
 私は一心不乱に踊る。昨日のケガはまだ癒えきったとはいえないが、こんな所でへこたれてなんていられない。まだ踊れるのだから、やれるだけのベストを尽くさなくては。
 無心にリズムを取りつつ舞う。ダンスの得意なアイドルとはうってかわって、まだまだたどたどしいという自覚はあったけれど、それでも少しずつ上手くなっているのを感じていた。
 ――よし、これなら!
 汗の玉ばかり浮かんでいた顔に、喜びの表情が現れる。他の人が見ても、ほんの少ししか変わらないような成長も、今の私には宝物のように見えた。
以下略 AAS



18: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:22:13.29 ID:yFIcZ1s10
 彼は淡々と答えると、部屋の後方の壁に寄り掛かった。どうやら、このまま見続けるつもりらしい。その手には何かが握られていたが、私には何が握られているのかは見えなかった。
「……止めに来たんですか」
「止めになんてこないよ、志保が嫌がったからな。ただの観察だ、観察」
「……なんでですか?」
「プロデューサーが、担当のアイドルの能力を把握しようとするのはおかしいか?」
以下略 AAS



19: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:22:45.27 ID:yFIcZ1s10
 時計を眺める。8時30分。もうすぐ、集合時間になってしまう。シャワーを浴びたりする時間を考えれば、そろそろ切り上げる時間だ。
 振り返って、部屋から出ようとする。そこには、彼の姿はなかった。観察すると言いつつ、途中で帰ってしまったのだろうか。
 見ていて欲しいとは一片たりとも思っていなかったが、そそくさと帰ったというのは、それはそれでつまらないと鼻を鳴らす。私の踊りに飽きたから?そんな事を少し考えると、何故か無性に腹が立った。
 さぁ、もう引き上げ――
 「……えっ?」
以下略 AAS



20: ◆SESAXlhwuI[saga]
2017/06/16(金) 19:23:13.51 ID:yFIcZ1s10
「もう、きちんとゴミ処理位はしてほしいわ……」
 私は、余計な観客に不平を零しつつ、それらを手に取った……よく見れば、下敷きになった紙には何か黒いインクがにじんでいる気がする。ここまで嫌がらせをするのだろうか。プロデューサーさんを拒んだ私を、彼は嫌ったのかも――
『サビのステップ・いつも半拍遅い。初動は早すぎるくらいに動いても構わないので、リズムを重視してステップを踏む事』
「……え」
 チラリと文字が視界を横切ると、今まで、彼への不平を浮かべる事で精いっぱいだった脳みそがリセットされた。その紙切れに目を近づけてみると、すべて私へのアドバイスで埋められていた。私はそれを必死に解読する。時折、黒ずんだ染みになっているだけの部分であっても、その貴重な一言一言は、私の胸に染み込んでいった。
以下略 AAS



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