新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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576: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:24:47.66 ID:7BzTB0Y9O

 三人を乗せた車は高架下の駐車場に停めてあった。道路を行き来する車はなく、高架は屋根のように覆い被さっていた。高架の両側に並んだ平屋の民家も、近くにある踏み切りも、深夜なので真っ暗闇に呼応するように沈黙していた。音がしているのは永井たちがいる車の中だけだった。

 スピーカーの音量は絞ってあったが、中野とアナスタシアがぺちゃくちゃくっちゃべっていて、これが永井にはうるさかった。歌詞の解釈やレコーディング時の裏話などをアナスタシアは嬉々として語った。中野はふんふんと頷きながら感心したように話を聞いていた。アイドル本人が後部座席から歌っている曲の解説をしてくれるのがどれほど幸福なのか、中野はよくわかっていない。

以下略 AAS



577: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:26:31.44 ID:7BzTB0Y9O

 幼いころは姉と遊んだ、トランプとかボードゲームとかで。こういったテーブルゲームの類いで姉と対戦したとき、永井の記憶では、いつも自分が勝っていた。それは、けっして負けがくやしくて忘れ去ったわけではなく、事実負けたのは最初の数回くらいで、あとは全部勝っていたからだった。

 美波は負けず嫌い。つまり熱しやすい性格だった。だから、敗色が濃くなってきたときにチャンスのようなものをそっと差し出してみると、すぐに飛びついてくるのだった。そこに罠を仕掛ける。あるいは、ほんとうにチャンスを差し出す。二回、三回と、逆転の可能性をちらつかせ、こちらもそれを必死にものにしようという懸命さをみせ、接戦を演じてみせる、確実に勝てる切り札を手札に隠しながら。そうすると、美波は地雷を踏んでしまったかのように負けてしまうのだ。

以下略 AAS



578: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:27:53.33 ID:7BzTB0Y9O

 九月初めの夕暮れ時。濃いオレンジ色の夕陽に照らされて、走るふたりの影がのびる。全力疾走は十回を越える。ついに永井が音をあげた。半分怒ってもいる。美波は水筒から麦茶をごくごく飲んでいた。勝利を味わうように。起き上がった永井はぷいと背かを向け家へと歩いていく。ドアを開けたところで、美波から声がかける──「ねえ待って、まだあと三十回は……」──永井はドアを閉めた、ばたんと大きな音がした。

 その後、姉弟のあいだでゲームが行われたことは一度もない。

以下略 AAS



579: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:29:30.40 ID:7BzTB0Y9O


アナスタシア「ひどいことを言っちゃ、ダメです」


以下略 AAS



580: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:31:02.58 ID:7BzTB0Y9O


永井「おばあちゃんのトコにいたかったな」


以下略 AAS



581: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:52:11.84 ID:7BzTB0Y9O

永井「暗殺リストが公開されたいま、佐藤と戦うなら待ち伏せがベストだけど、こいつの容姿は目立つ。不向きこの上ない」

中野「暗殺リストってなんだよ?」

以下略 AAS



582: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:54:28.10 ID:7BzTB0Y9O

アナスタシア「いたい!」

中野「いてっ」

以下略 AAS



583: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:56:41.37 ID:7BzTB0Y9O
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584: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 21:59:23.16 ID:7BzTB0Y9O

アナスタシア「アヂン、ナッツァッチ……じゅういち、人……」


 アナスタシアは数を数えてみた。十一人分の命、十一人分の命がゼロになったときのことを考える、そのときはもっと多くの、夥しいと言っていいほどの命が消える、そんな事態が起きる、ほとんど確信にちかい思い、ふと《戦争》という言葉が頭をよぎった、それは文章になった、それを読んだのは誰かの肩ごしから、──パパ? ママ? グランパかグランマ? それとも、まったく別の人? フミカもよく本を読んでるけど、覗きこんだことはないからちがうはず──こんなふたつの文章を。
以下略 AAS



585: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 22:00:57.90 ID:7BzTB0Y9O

 亜人が三人も集まったのなら、尽きることのない命が三つも集まったのなら、《戦争》を、いや《戦争》が起きるのを止められるかもしれない。でも、そうだとしても、覚悟が決まらないし、勇気が足りない。美波がいたらと考え、すぐ思い直す。遠ざけねばならないのだ、争いや殺しといったおそろしいことから。アナスタシアはペシコフを亡くしたときの祖父の姿を思い出す。あきらかに心の均衡を崩していた、正気でいたくないという願望、他人事ではない死の恐怖。美波もそうなっている。佐藤のテロせいで、亜人の国内状況はひどくなるし、亜人の家族にとってもひどくなる。祖父のときよりもっとひどく、長く続く状況。

 アナスタシアとちがって、中野は決然とした態度で永井に身を乗り出して大声で言った。

以下略 AAS



586: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/04/17(火) 22:11:12.16 ID:7BzTB0Y9O

 永井は指を二本立てた。中野とアナスタシアはその指を見ながら永井の言葉を待った。永井がふたりの方を向いて、言った。


永井「ひとつ目は……僕がそこらの大人なんかよりよっぽど頭がいいってとこだ」
以下略 AAS



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