551: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:28:55.16 ID:oL93h30zO
数時間が経ち、中野がようやく居酒屋から出てきた。サラリーマン風の三十〜四十代の男性数名と連れ添っている。かれらのうちでいちばん太っちょで年かさの男性が両脇を、おそらくは部下であろう二人に抱えられて足を浮かせていた。店前に停まったタクシーまで引きずられながら、おれは運転できるぞー、と喚いている。両脇のふたりはなんとかタクシーに男性を押し込ると、眼鏡をかけたひとりが振り返り中野に快活に別れーーじゃあな、少年!ーーを告げた。
中野「ごちそーさんです」
552: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:29:57.94 ID:oL93h30zO
永井「スったのか」
中野「そんなことするか。くれたんだよ」
553: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:31:23.63 ID:oL93h30zO
中野は咄嗟にエンジンをかけると不意打つように車を急発進させた。シートベルトを着ける寸前だった永井はダッシュボードに頭をぶつけそうになった。
永井「なんだよ、急に!」
554: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:33:06.87 ID:oL93h30zO
中野「探してるだろ」
永井「やみくもに走らせても意味ないだろ」
555: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:34:33.45 ID:oL93h30zO
ドーム型遊具のなかにいると、暗闇のおかげですこしだけ安心して休まった気持ちになる。コンクリートでできた半球形の屋根がすべてを遮断してくれ守ってくれるように思える。例外もあるが。ここにいれば、街灯の緑っぽい光やすれちがう他人の視線から避難することはできる。ただ熱気からは逃れられない。形と材質のせいで、熱気のほうが逃れられないといったほうがいいかもしれない。蒸し風呂とまではいかないが、そうとうな温度なのは確かだ。
今夜は風がなく、涼むことは望めそうにない。ドームのなかにいるアナスタシアにはなおさら。
556: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:35:59.37 ID:oL93h30zO
とはいえ、人間の心理はひとつの感情が一定のまま長続きするものではない。暑かったり寒かったり、周囲の環境が肉体的負担をかけている場合はとくにそうだ。
アナスタシアはふと我にかえり、ひどい空腹と喉の渇きを覚えた。
557: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:37:38.02 ID:oL93h30zO
子どもたちの遊び場なのだから、人の住む場所の近くにあるのが当然だ。アナスタシアは不安になる。いまはまだ夜で、人のすがたはなく、たまに自転車のホイールの回転する音や自動車の走行が聞こえるくらいだけど、朝になれば子どもたちが公園に遊びにくる、母親あるいは父親もいっしょについてくる、人であふれるほど立派な公園ではないけれど、午前十時くらいにはやっぱりだれかがやってきて、遊具にかけより、すべったりゆれたりする、そのうちドームにやってきて、ゆるやかな曲面をのぼり天辺に立って公園を征服した気分になる子どももいるだろうが穴を通ってドームの内側に入ってくる子どももいて、そしてそこでアーニャを見つけてびっくりする。
見つけたのは亜人だから。
558: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:38:59.83 ID:oL93h30zO
自転車の走行音がまた聞こえる。スピードはそれほど出てなく、タイヤがアスファルトを擦る音がやたら大きく響いた。角を曲がったときに鳴るあの特有の音だ。おそらく、公園ちかくに停車したのだろう。ドアが開き、閉められる音がたてつづけにして、だれかが公園へ入ってきた。
アナスタシアは緊張で心臓をバクバクさせながら、トイレによっただけ、と思い込もうとした。身体を縮こまらせ、呼吸をとめて、気配を消そうと力んだ。
559: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:40:49.79 ID:oL93h30zO
顔にむかって光が投げかけられた。瞳に光線がまともにぶつかり、アナスタシアは反射的にまぶたをとじた。光が眼に滲みる。ぎゅっと搾るようにまぶたを閉じたので、まぶたの裏側の血流を感じた。
ドームを覗きこんだ人物は光源をさげ、トイレを捜索しているもうひとりの男に向かって叫んだ。
560: ◆8zklXZsAwY[saga]
2018/02/18(日) 21:41:56.51 ID:oL93h30zO
アナスタシアは頭を下げながらゆっくりと外へ出てきた。中野はいっそう強くうちわをあおいだので、銀色の前髪が持ちあがり、額やまぶたをくすぐった。ふらつきながら立ち上がると、喉と胃の訴えがふたたび強くなってきた。
中野「永井、飲み物三つな!」
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