新田美波「わたしの弟が、亜人……?」
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334: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:06:28.82 ID:8mPTevMeO

アナスタシアの眼に映る森の木々は次々と分身を生み出していた。ひとつ、またひとつと木々は半分透けた影のような分身を増やし、樹間を埋めてアナスタシアの行く先を塞ごうとしているようだった。まるで森そのものが幽霊になったみたいで、薄暗い程度だった森の中は、幹の色や葉の裏側や伸び切った草の葉まで黒く見える。半透明の木々の分身と本物の樹木の区別もまるでつかない。焦点を合わせる機能が眼から失われてしまったのだ。アナスタシアは眼がおかしくなったのか、それとも頭のほうがおかしくなってしまったのか分からないでいた。頭の中で永井の声が前後の文脈もなく渦巻いていた。声は幻覚と組み合わさって森の幽霊たちが囁いているようだった。


「そのキノコは最良のスケープゴートだイボテングタケけっこうって口にあったようで中毒症状は旨かっただろアナスタシアさん亜人だとバレたら国内四例目知名度殺すなよかったよ僕にはきみの捕獲理解いってできないねこのあたりの自生していると同時に針葉樹林帯に警察や政府の追っ手コンスタントに不死身でも殺すなアイドルイボテン酸研究所にという事実がわざわざ発覚その状態じゃあ幽霊はアミノ酸が毒成分旨味のもとでおいしくない殺すなまともに操作できない二〇分から二時間で無力化草刈りに発症腹痛嘔吐幻覚痙攣精神錯乱意識不明に陥ることもあ」
以下略 AAS



335: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:07:45.77 ID:8mPTevMeO

アナスタシアの足が滑った。転んだ先にある木の幹は本物で、アナスタシアは勢いよく固い樹皮に額をぶつけてしまった。ぶつけた箇所の皮膚が擦りむけたが、痛みを感じることが気付けとなり、アナスタシアに現状に対する判断力がすこし戻った。増え続ける幻覚も声も相変わらず続いていたが、それを終わらせる方法をアナスタシアは知っていた。

地面にコマのようなものが回っていた。手を触れたら指が欠けてしまうかもされないような速度だったが、アナスタシアは深呼吸して息を止めると、コマに手を伸ばした。アナスタシアが掴んだのは、長さ三十センチ程の折れた枝で、黒く変色した樹皮の先から鋭く尖った部分が飛び出している。アナスタシアは両手で枝を掴みながら、先ほどの永井の行動を思い出す。眼を閉じて枝の先端を首にあてると、皮膚を針で押したような痛みになりかけている感触が伝わる。アナスタシアは肩を上下させるおおきな呼吸を二、三度行うと、痙攣する腕を引き、首めがけて枝を突き刺す。

以下略 AAS



336: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:09:01.87 ID:8mPTevMeO

痛みを感じて眼を開くと、枝の先端はわずかに血に染まっていて、首の傷からは血が一筋滴り落ちていっただけだった。アナスタシアは愕然とした。こんなにちいさな痛みのために、わたしは死ぬことを止めてしまったのか?

アナスタシアは、森に逃げるのではなく崖から飛び降りるべきだったと後悔した。同時にだれかに嘲笑れているという不安感も起こる。永井かと思ったがそれだけではなく、アナスタシアを押し潰そうとするように増え続ける木の分身や、蝉の鳴き声や、日を遮る葉が生み出す薄暗がりや、木の枝に着いた血が、なす術のないアナスタシアを嘲笑していた。

以下略 AAS



337: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:10:51.17 ID:8mPTevMeO

窮地から抜け出すために、アナスタシアは死ぬしかない。自分で死ぬか、永井に殺されるかの二択。前者が一回限りの死に対して、後者は無数に繰り返される死の始まりに過ぎない。

アナスタシアは黒い幽霊を発現する。黒い幽霊はさっきと同様立ったまま沈黙している。アナスタシアは喘ぎながら、苦しみに耐え頭を上げる。込み上げてくる嘔気を必死で抑えつつ、アナスタシアは自分を見下ろしている幽霊に命令の言葉を告げる。

以下略 AAS



338: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:11:53.39 ID:8mPTevMeO

アナスタシアは幹の寄りかかりながら、襲いかかってくる黒い幽霊を見る。死んで復活するのを待っていたら、そのあいだに永井の幽霊がふたたびアナスタシアの幽霊を無力化するだろう。黒い幽霊の使用は二回目で、この日はすでに使用限度をむかえていた。後頭部から垂れた血が背中へ流れるのを感じながら、アナスタシアは覚悟を決めた。ここで殺されるわけにはいかない。彼の思惑通り、わたしが亜人だと世間に知られ、捕まってしまったら、悲しむ人たちが大勢いる。家族や仲間。そして美波。美波の心はもう限界だ。もうこれ以上、悲しさに耐えることはできない。だから、彼と戦う。戦って、そしていまならまだ、逃げることもできるはず。


アナスタシア「たたかって!」
以下略 AAS



339: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:14:08.26 ID:8mPTevMeO

三体目に対処する暇もなく、またしても星十字の頭部が砕かれる。


IBM(永井)『ざまーみろ』
以下略 AAS



340: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:15:10.21 ID:8mPTevMeO

永井はさっき投げつけた石を拾いアナスタシアに近づくと、その側頭部を小動物を打ち殺すかのように殴った。腕を振るフォームは、肩を温めるためにおこなうキャッチボールのときみたいにいい感じに力が抜けていた。

永井は意識を失ったアナスタシアの脚の傷に止血と応急処置を施した。それが終わると、中野と同様に拘束をしてから、ワンショルダーバッグから折りたたんだ青いビニールシートを取り出し、広げたシートの上にアナスタシアを運び、その身体を出来るだけ隙間がないよう包んだ。左右の端を捻りダクトテープで留めると、近くに隠していたガスボンベ用の運搬台車にアナスタシアを載せ台車から落ちないよう固定すると、後ろ手で台車を引っ張った。

以下略 AAS



341: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:16:52.69 ID:8mPTevMeO

アナスタシアが復活したときまずしたことは、襲ってくる痛みに耐えるため、瞼をぎゅっと締めつけるように閉じ、歯をくいしばることだった。だが痛みは一瞬で去っていった。アナスタシアが感じたのは錯覚で、折れた骨も裂けた筋肉も死から復活した際すべて完治していた。


永井「復活したか」
以下略 AAS



342: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:17:54.56 ID:8mPTevMeO

永井「もう幽霊は出さないの?」


撮影した映像を確認し終えた永井がアナスタシアに尋ねた。永井の疑問を受けても、アナスタシアは目覚めてからと同様浅い短い呼吸を繰り返すばかりで、何もできない。細かく震えてもいる。永井はその反応を見て、黒い幽霊の使用回数には個人差があるみたいだな、と思った。これ以上有益な情報は引き出せそうにないし、中野のこともあるので、早めに処理することにした。
以下略 AAS



343: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:53:35.04 ID:uktM1pJmO

永井「心配しなくても、しかるべきタイミングで外に出してやるよ」


永井はアナスタシアを引き摺りながら言った。
以下略 AAS



344: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:54:43.13 ID:uktM1pJmO

同日、ある映像がウェブ上にアップロードされた。カメラは低いビルの屋上に固定されていて、背景にあるのは何の変哲もない街中の風景。マンションや撮影位置と同様の低いビルが見える。音声には鳥の囀りや自動車の走行音が混じっている。画面中央にパイプ椅子に腰かけた人物がいる。その人物はハンチング帽を被っている。その人物は右手をあげ、映像を見ている者に挨拶する。


やあ、また会ったね。亜人の佐藤だ。
以下略 AAS



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