336: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 14:09:01.87 ID:8mPTevMeO
痛みを感じて眼を開くと、枝の先端はわずかに血に染まっていて、首の傷からは血が一筋滴り落ちていっただけだった。アナスタシアは愕然とした。こんなにちいさな痛みのために、わたしは死ぬことを止めてしまったのか?
アナスタシアは、森に逃げるのではなく崖から飛び降りるべきだったと後悔した。同時にだれかに嘲笑れているという不安感も起こる。永井かと思ったがそれだけではなく、アナスタシアを押し潰そうとするように増え続ける木の分身や、蝉の鳴き声や、日を遮る葉が生み出す薄暗がりや、木の枝に着いた血が、なす術のないアナスタシアを嘲笑していた。
アナスタシアはふたたび木の幹に頭を打ち付け、これは幻覚だ、ほんとうじゃないんだ、と必死に自分に言い聞かせた。だが、もう一度自分で死ぬことはできそうになかった。死を拒否する身体の反応を抑えつけるための意志の力を引き出すには、いまのアナスタシアにはほとんど不可能だった。毒のせいもあるが、ほとんどの人間がそうであるように、アナスタシアは死にたくなんてなかったからだ。
アナスタシアは生命の危機を感じていた。このままでは確実に殺されてしまう。生き返って目覚めたら、解剖台の上にいるかもしれない。田中の生体実験の映像が急に思い出される。銃で頭を撃ち抜かれることがいちばん幸運な死に方だなんて、そんなことは思いもしなかった。
968Res/1014.51 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20