283: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:36:18.76 ID:8mPTevMeO
ロッカーの位置を調節し終えた秋山と中野が、ドア越しに佐藤の声を聞いた。
秋山「聞いただろ。監禁されるだけだ。行くぞ!」
284: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:37:49.61 ID:8mPTevMeO
秋山と中野は必死に走り続けている。建設途中で放棄されたホテルには表記がなく、どこもかしこも区別がつかずまるで迷路のようだ。二人は外縁にあたるであろう方向に走りまくった。脚を激しく回転させるのと同じように、曲がり角があれば首を左右に動かし脱出のための経路を探る。
秋山「窓があるぞ!」
285: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:38:54.07 ID:8mPTevMeO
湿気混じりのムワッとした暑気が入り込んでくる。二人は纏わりつこうとする暑気を突き抜けるように、窓から身を乗り出して下を覗き込んだ。地上八階の高さ。亜人といえども思わず躊躇する。
中野「コッ……ココから降りるのかよ!」
286: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:42:08.56 ID:8mPTevMeO
秋山がそう叫んだ直後、二本の銛が秋山の身体を貫いた。ワイヤーが巻き取られると、秋山は後ろへ引っ張られて廊下の床へ倒れ落ちる。銛そのものも、秋山が引っ張れていくと、滑るように身体から引き抜かれそうになったが、先端にある返しが肉に引っかかり食い込んで、銛が抜けてしまうのを防いでいる。
中野「おじさん!」
287: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:43:45.19 ID:8mPTevMeO
あまりにも突然のことに、中野は笑いの発作が起こったかのように息を吐いた。そのあいだにも握った手を懸命に引っ張り続けているが、秋山の身体を窓の外へ運ぶことができない。手の感覚が消えて、腕が震えを見せはじめている。
秋山「おまえがどうにかしろ! もう、おまえにしか止められない!」
288: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:44:52.97 ID:8mPTevMeO
頭部から三角錐のような五つの角が、上に向かって伸びている黒い幽霊が両拳を身体の前で構え、脇を締め腰を落とし、ファイティングポーズをとる。秋山はワイヤーを腕に巻きつけながら、門番のように窓の前に背中を預け陣取った。
IBM(田中)『お゛お゛お゛』
289: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:45:43.62 ID:8mPTevMeO
秋山「こんなことで……亜人の権利を認めさせられると……思うのか……」
田中「必ず勝ち取る」
290: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:49:58.87 ID:8mPTevMeO
曽我部「これは先日省前で撮られたテレビカメラの映像です」
細い面長の顔をした若い厚労省職員が言う。眼鏡をかけたこの男は曽我部といって、戸崎の大学の後輩だった。曽我部はパソコンを操作して映像を再生する。液晶ディスプレイに映っているのは、先日の亜人虐待の抗議活動を撮影した映像で、テレビ局から直接借りたものだ。念のため、省前にいた人間の顔を調べ、その個人情報を擁護思想者リストに加えるための優先度の低い作業の途中、曽我部は映像に妙な細部を見つけ、戸崎に報告した。
291: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:51:54.20 ID:8mPTevMeO
曽我部「数まではわかりませんが」
戸崎「ズームしてくれ」
292: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:58:21.35 ID:8mPTevMeO
一夜明け、中野は自宅のあるマンションへと帰ってきた。建物内に入ると、ようやく緊張感が薄れるのを感じる。築二十年以上のそうとう古いマンションで、見た目も味気なく郷愁もなにもあったものではないが、長く住んでると、こうした場所でも心は馴染んでしまうのだ。
主婦「おはよー」
293: ◆8zklXZsAwY[saga]
2017/07/08(土) 12:59:35.38 ID:8mPTevMeO
世間話を終えて主婦と別れ、中野は自分の部屋に向かう。疲労のためか中野はだらだらとした足取りで歩いていた。他の住人にまたしたも血まみれのパーカーが目撃されるかもしれなかったが、疲れを癒すために自分の部屋まで慌てて走る気にはなれない。中野はポケットに手を入れたまま、七階の通路を進み、部屋の前まで来た。
中野「お」
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