勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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672: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:22:25.48 ID:uAQKxthS0
港町ポルトでは、近年になって実用化された蒸気機関を搭載した船―――『蒸気船』が盛んに行き交っていた。
その船の一つから、港町ポルトに降りる影がある。
肩のあたりで切り揃えられた水色の髪。
優しいまなざしに、老いてなお瑞々しく張りを保つ豊かな胸。
かつての勇者パーティーの一人―――――僧侶だ。
673: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:23:09.91 ID:uAQKxthS0
『第六の町』の西に位置する大森林。その奥深くに存在する『エルフの里』。
エルフの里も、この三十年で大きく変わりつつあった。
魔王との決戦の際の共闘がきっかけで、人間との共存の道を探ろうという気運が高まったのだ。
このエルフの歴史の大きな転換点を迎えて、エルフの長老は長の座から身を引き、年若いエルフの少女が新たな族長となった。
新たな族長となったエルフの少女が元々人間に対してかなり好意的であったことも手伝って、エルフと人間の交流は進み、エルフの里の存在は公になりつつあった。
674: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:24:06.04 ID:uAQKxthS0
「長、ご報告が」
固い声が部屋の中に響いた途端、それまでの弛緩した空気は一気に打ち切られた。
報告を聞いたエルフ少女とエルフ少年の二人は、真剣な面持ちのまま視線を交わらせた。
675: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:24:45.33 ID:uAQKxthS0
大陸南端に位置する霊峰ゾア。
その山頂で、空を走る遠雷を苦々しく睨みつける影があった。
竜神「勇者よ。貴様がアマゾネスの試練を禁じてから、より良き子種の選別が出来なくなった我が子らは確実に力を弱めておる。種族として、弱体化の一途をたどっておる」
676: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:25:35.39 ID:uAQKxthS0
勇者の故郷、『始まりの国』。
もっとも、当時の国家は解体され、今は名を変えているが―――そこに、ひとつの墓があった。
墓に刻まれている名前は、もはや世界の誰もが知っているもので。
つまるところ―――世界を救った勇者、その母の名前がその墓には刻まれているのであった。
『伝説の勇者の息子』を正しく育て導いた者として、『聖母』と崇められすらした女性の墓前に、武道家の姿があった。
677: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:26:22.26 ID:uAQKxthS0
世界の中心、地球のへそというべき場所に存在する『世界樹の森』。
常人では決して到達することの出来ない、その森の最奥に勇者はいた。
膝ほどの高さの岩に腰かけ、目を閉じて瞑想している。
傍には半ばで折れた精霊剣・湖月が打ち捨てられていた。
伝説剣・覇王樹も血錆に塗れ、かつての輝きを失い、今はもうただの鈍らと化して転がっている。
678: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:27:13.90 ID:uAQKxthS0
『気づいたかね?』
勇者の脳裏に直接響いてくるのは『光の精霊』の声だ。
光の精霊『君ともあろうものが随分と迂闊だったな。いつもならば十里も寄れば気配を察知して即座に身を隠していたろうに。何者かに近づかれたぞ―――もはや視認することすら可能な位置にまで』
679: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:28:06.02 ID:uAQKxthS0
だけど、この女性が戦士であるはずはない。
三十年。三十年だ。
あれからもう三十年もの月日が経過している。
つまり戦士はもう五十歳に届こうかという年齢になっているはずだ。
目の前の女性の年代は二十の半ばから、どんなに多めに見積もっても三十の前半だ。
680: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:28:50.95 ID:uAQKxthS0
681: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:29:35.53 ID:uAQKxthS0
キーン、と響く耳鳴りに勇者は目を回す。
はっと我に返って、勇者は女性を振り返った。
勇者「戦士…? まさか、戦士なのか!?」
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