勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
↓ 1- 覧 板 20
676: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:25:35.39 ID:uAQKxthS0
勇者の故郷、『始まりの国』。
もっとも、当時の国家は解体され、今は名を変えているが―――そこに、ひとつの墓があった。
墓に刻まれている名前は、もはや世界の誰もが知っているもので。
つまるところ―――世界を救った勇者、その母の名前がその墓には刻まれているのであった。
『伝説の勇者の息子』を正しく育て導いた者として、『聖母』と崇められすらした女性の墓前に、武道家の姿があった。
武道家はこうして足繁くこの墓に通い、その維持管理に務めている。
それは、本来それをすべき彼の役目を肩代わりするかのように。
武道家「……こうしてここに来るたび、あなたの死に顔を思い出します。とても満ち足りた、悔いなど欠片もないような顔……」
武道家「人々はあなたを讃えました。実際、あなたは正しかったんでしょう。あなたが居なければ、きっと今の世の平和は無かった」
墓前に花を添え、武道家は黙とうする。
深くしわの刻まれた目が、ゆっくりと開いた。
武道家「だけどね……俺はやっぱりアンタを許せない。どうしてこんなことになっちまったんだって、いつも思っちまうよ……おばちゃん」
そう言って立ち去る武道家の脳裏に浮かぶのは、勇者の母が死んだ日のこと。
死ぬ間際に、勇者の母が口にした言葉。
『ああ、勇者……私たちの息子……私はあなたを本当に誇りに思います……』
武道家は親指で目元を拭う。
目頭が熱くなったのは、悲しみからでも、ましてや感動からでもない。
煮え滾りそうになる感情を武道家は努めて押し殺す。
武道家(―――どうして、どうしてたった一言―――――)
もういいのだ、と―――――あいつに言ってやらなかったのか。
758Res/394.23 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
書[5]
板[3] 1-[1] l20