勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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677: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:26:22.26 ID:uAQKxthS0
 世界の中心、地球のへそというべき場所に存在する『世界樹の森』。
 常人では決して到達することの出来ない、その森の最奥に勇者はいた。
 膝ほどの高さの岩に腰かけ、目を閉じて瞑想している。
 傍には半ばで折れた精霊剣・湖月が打ち捨てられていた。
 伝説剣・覇王樹も血錆に塗れ、かつての輝きを失い、今はもうただの鈍らと化して転がっている。
 だけど、それで別に問題は無かった。
 今の勇者には剣など必要ない。
 なにせ今の勇者は腕の一振りで何十もの人間を同時に肉塊と変えてしまえるほどの膂力を備えている。
 ぴくり、と勇者の肩が震えた。

勇者「……少し、眠ってしまっていたか」

 そう呟き、勇者は目を開けた。
 勇者の目の下には色濃く隈が刻まれているけれど、三十年の月日で勇者の顔にあった変化と言えば逆にそこくらいのものだった。
 光の精霊の言葉の通り、勇者は老いることなく、かつての姿のまま今を生きている。
 勇者は腰に下げていた水筒を手に取り、ぐい、とあおって喉を潤した。

勇者「……疲労感が強いな。もう少し、休む必要があるか……」

 勇者は不老ではあっても不死ではない。
 命の理すら捻じ曲げる大量の精霊加護によって、勇者の体は物理的なダメージや病魔を跳ねのけることが出来る。
 出来るが、それだけだ。
 飢えれば死ぬし、寝なくても死ぬ。
 蓄積された疲労によって体調も悪くなる。
 備蓄していた食料に手を伸ばすために立ち上がろうとした勇者の足ががくりと崩れた。

勇者「ふ、ふふふ……」

 勇者から自嘲の笑みがこぼれる。

勇者「たかだか三十年だぞ……これからあと何年この状況が続くと思ってんだ。気合い入れろ、馬鹿野郎……」

 がつんと己の膝を殴りつけ、勇者は立ち上がる。
 干し肉を噛み、水筒をあおって無理やり喉の奥に流し込んだ。
 そこで、勇者ははたと気づいた。




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