勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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678: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:27:13.90 ID:uAQKxthS0
『気づいたかね?』

 勇者の脳裏に直接響いてくるのは『光の精霊』の声だ。

光の精霊『君ともあろうものが随分と迂闊だったな。いつもならば十里も寄れば気配を察知して即座に身を隠していたろうに。何者かに近づかれたぞ―――もはや視認することすら可能な位置にまで』

勇者「………」

 気づいていたなら声をかけてくれれば―――そう言いかけて、勇者は口を噤んだ。
 光の精霊は、勇者の生き方・在り方を面白がってちょっかいをかけてきているだけで、別に仲間という訳ではない。
 光の精霊は誰の味方もせず、誰とも敵対せず、ただ好奇心のままに動く特異な精霊だ。
 勇者は思考を侵入者の方に戻す。
 確かにお互いの姿を視認できるまでに近づかれたのは迂闊だったが、今から逃げればいいだけのこと。
 今の立場になってから、勇者は誰とも関わりを持とうとはしない。
 それはいつまでも絶対中立の装置であり続けるために。

勇者(あの人影がこちらに駆け寄ってくる十数秒の間に俺は万里の彼方まで離れることが出来る。何も問題は無い。とはいえ、この世界樹の森の最奥までたどり着くとは、並の者ではないな)

 勇者は侵入者の正体を探ろうと人影に目を凝らして、固まった。
 長く動かしていなかった心を鷲掴みにされたような気分になった。

 鷲掴みにされて、揺さぶられた。

 人影はほんの一瞬の間に、もう勇者の目の前まで迫っていた。
 完全に想定外の速度。かつ放心した虚を突かれた勇者は、その動きに碌な反応も出来ず。
 勇者はその人影にがっしりと腕を掴まれてしまった。

「ようやく……ようやく見つけた……!」

 はぁはぁと息荒く口を開いた人影の正体は金髪の美しい女性だった。
 勇者は掴まれた腕を振り払うこともせず、硬直してしまっている。
 勇者は混乱していた。
 突然目の前に現れた、年の頃およそ二十の半ばに見えるその女性は。
 かつての仲間に。
 かつての最愛の人に。
 三十年前に袂を分かったはずの。

 ―――――戦士に、とてもよく似ていた。




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