勇者「伝説の勇者の息子が勇者とは限らない件」後編
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681: ◆QKyDtVSKJoDf[saga]
2017/11/03(金) 18:29:35.53 ID:uAQKxthS0
キーン、と響く耳鳴りに勇者は目を回す。
はっと我に返って、勇者は女性を振り返った。
勇者「戦士…? まさか、戦士なのか!?」
勇者の問いに、女性は――――かつて勇者の仲間であり、恋人でもあった戦士は頷いた。
戦士「ああ、そうだ。正真正銘、私だ」
勇者は信じられない、という風に頭を振った。
勇者「馬鹿な…ありえない。三十年だ。三十年だぞ? どうして君は、そんな若々しい姿のままなんだ? 君のもつ精霊加護の量では、寿命に影響なんて無いはずだ」
戦士「奇跡を起こすのは精霊の専売特許というわけではあるまい? 少なくともお前はそれを知っているはずだ。他ならぬお前自身がその身で味わったことなのだからな」
勇者「何…?」
戦士「『狂剣・凶ツ喰(キョウケン・マガツバミ)』。覚えていないか?」
勇者は目を見開く。
当然、その名前には覚えがあった。
忘れるはずもない。
『狂剣・凶ツ喰』。
竜に殺意を燃やす人間の狂気が生んだ、呪いの剣。
装備した者を不死に近い回復能力を持った狂戦士へと変貌させる―――人の怨念が生んだ、奇跡の産物。
戦士「苦労したぞ。あの時お前に拒絶されてから、私はお前と同じ時を生きる方法を探し続けた。探して、探して―――――そして、遂に見つけたんだ」
戦士は勇者の目の前に左手を差し出した。
その中指には、一目で分かるほど禍々しい気配を放つ指輪がはめられていた。
戦士「『死者の指輪』という。この指輪には不老不死の呪いがあり、これを装備した者は永遠に老いず、永遠に『死ねない』。一体どれほどの怨念、情念が込められればこんな馬鹿げた一品が生まれるのか……想像もつかないよな」
戦士はそう言って悪戯っぽく笑った。
勇者「そ、そんな……」
わなわなと、勇者は肩を震わせている。
戦士「12年。この指輪を発見するまでに12年もの時を要してしまった。だから、私の肉体年齢はお前より12年分年上になってしまったけど……まあ、自分で言うのもなんだけど、綺麗に成長できただろう? 胸も、ほら、僧侶ほどじゃないけどちょっと大きくなった」
勇者「馬鹿野郎!!!!」
戦士の言葉は勇者の怒号で遮られた。
勇者「なんて…なんて馬鹿なことを!!!! どうして、こんな……俺は、お前に普通に幸せになってほしくて、だから、俺は……!!」
勇者の目に涙が浮かぶ。
実に三十年ぶりに流す、人間としての涙。
しかしそんな勇者の様子に、戦士はふんと鼻を鳴らした。
戦士「言っておくが、この件についてお前にどうこう言う資格はないぞ。三十年前、今のお前のように叫んだ私達の気持ちを、お前は蔑ろにしたんだ」
勇者「そ、れ…は……」
戦士「いいんだ。今更責めるつもりはない。私の願いはひとつだけ。ひとつだけなんだ、勇者」
戦士は再び勇者の手を取った。
今度は優しく―――温もりを共有するように、柔らかく―――手を握る。
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