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真・恋姫無双【凡将伝Re】4
- 1 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/15(金) 20:56:18.10 ID:V4qJYoLE0
- 時は二世紀末、漢王朝の時代。
四世三公の名家たる袁家に代々仕えし武家である紀家に生まれた一人の男児。
諱(いみな)を霊、真名を二郎というこの男は様々な出会いや経験を重ねていく中で、やがて世を席巻していく。
しかし、彼には誰にも言えない一つの秘密があった。
彼の頭の中には、異なる世界における未来で生きてきた前世の記憶が納められていたのだ――。
これは、三国志っぽいけどなんか微妙に違和感のある世界で英雄豪傑(ただし美少女)に囲まれながら右往左往迷走奔走し、それでも前に進もうとする凡人のお話である。
※リトライとなりますが大筋ではそんなに変わらない見込みで
※なろうにても投下しております。こっちで書いて推敲してからなろうに投稿って感じです
※合いの手長文歓迎です
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1526044205/
過去スレ
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1480942592/
ttp://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445344769/
どんどこいくよ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1573818977
- 2 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/15(金) 21:03:41.04 ID:V4qJYoLE0
- 時は二世紀末、漢王朝の時代。
四世三公の名家たる袁家に代々仕えし武家である紀家に生まれた一人の男児。
諱(いみな)を霊、真名を二郎というこの男は様々な出会いや経験を重ねていく中で、やがて世を席巻していく。
しかし、彼には誰にも言えない一つの秘密があった。
彼の頭の中には、異なる世界における未来で生きてきた前世の記憶が納められていたのだ――。
これは、三国志っぽいけどなんか微妙に違和感のある世界で英雄豪傑(ただし美少女)に囲まれながら右往左往迷走奔走し、それでも前に進もうとする凡人のお話である。
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\ .|l ! | | ::::いレ/「::::└! `辷, イ / :: | |∧ i ←袁術
\| |ハ | ::::いト、弋‐リ_ ノイ:::: | | W |
W Vハ! | ハ \ ''"´ ′ '´´ l::::. | ト、| l\ l
ヽク ハ ヽ >- rヽ ノ:::. | い! `┘
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- 3 :俯瞰者 ◆e/6HR7WSTU [sage saga]:2019/11/15(金) 23:02:00.19 ID:tkqH/Ehp0
- わぁ。早くも4スレですか。早いですね。
新スレ突入おめでとうございます。
……袁術ちゃんかわええ。でも誰かさんに初めてを捧げちゃうんだろうな(憶測)
じ……き……誰かさんは爆発四散しろ(呪い)
- 4 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/16(土) 14:47:29.54 ID:1bLC/zqEo
- 建て乙
- 5 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/18(月) 21:17:36.81 ID:MAElKcUL0
- >>3
どもです。
サラマンダーより早くありたいとは思っております!
>……袁術ちゃんかわええ。でも誰かさんに初めてを捧げちゃうんだろうな(憶測)
それもどうなるか分からないようなご時世になりそうです。ご期待くださいませませ。
>>4
どもです。
- 6 :赤ペン [sage]:2019/11/18(月) 21:56:13.34 ID:ib875aHT0
- 立て乙です
さて…明日になっても埋まってなかったら私が前スレの1000を頂こう
- 7 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/18(月) 22:45:37.78 ID:y7b2GEDWO
- 完結したら前スレを埋めよう
- 8 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/20(水) 21:17:01.66 ID:trIZpCq90
- 「なん、だと……」
地面が崩れていくような感覚が俺を襲い、そしてよろめく。
「では、ボクはこれで失礼しますね。あ、流琉によろしくお願いします」
桃色の髪を二つに結い上げた少女が物凄いスピードで去っていく。
その少女――許?――がもたらしたのは一通の書状。華琳からの書状。そこには二つのことしか記されていなかった。
曰く。
――董卓、叛す。
――呂布、何進を誅す。
どういう、ことだ。いや、詮索は後だ。よりによって華琳からの急報だ。
「風と七乃を呼べ!」
室の外に控える侍女に声を張り上げる。多分これは、やばい。
ちり、と危機感。
「どうされましたの?お顔の色がすぐれませんわね」
風だか七乃だかの機転だろうか。それとも余程俺の様子がおかしかったのだろうか。
室には風と七乃だけではなく、麗羽様、美羽様に猪々子と斗詩までいる。
「何進が討たれた、と華琳が報せてきました。
呂布の手によるとのことです。
であれば、おそらく此方にも手の者が来るでしょう」
報告する俺――ぐったりである――に麗羽様は柳眉を逆立てる。
そこに口を挟んだのは七乃だ。
「それはまた……。
信憑性はあるのですか?
曹操さんのことですから、此方の軽挙妄動を誘うという意図はないですかねえ」
「ないな。こちらを騙すつもりならもっとありそうなことを言ってくるさ。
そして華琳のことだからな。迷ってる時間も与えてくれてないに違いない」
恐らく董家軍は今にもこの屋敷に殺到するべく迫っているはずだ。
それくらいのギリギリ、でもどうにかならないわけでもないくらいのタイミングを華琳なら狙う。
「では、押し寄せる董家軍にどうしましょうかね。守りを固めるのは論外ですねえ。多勢に無勢です。
まあ、降るか逃げるか、ですが」
洛陽での軍事力は月と、禁軍を統べる朱儁に集約されている。
即応性を考えれば董家軍の優越は明らか。恐らく朱儁のとこにも兵は差し向けられているだろう。
で、あるならば。
「――降伏は性に合わん。逃げるとしよう。
それで、よろしいですか?」
麗羽様に問う。いやまあ、これでダメって言われたらどうしようとか今更ながらに思いながら。
「よろしくってよ。二郎さんがそうおっしゃるならばそうしましょう。
――委細、お任せいたしますわ」
即答。その信頼の篤さにぎしり、と肩が軋んだ。
が、今はそれどころじゃあない。脱出行の最中にとっ捕まるとか間抜けの極みだ。
俺のみならばともかく、麗羽様や美羽様に恥をかかすわけにはいかん。
風と七乃にざっくりでもいいから計画を、策を求めようと目を向ける前に、七乃は口を開く。
「はいはい。こんなこともあろうかと北部尉は買収済みです。既に日は落ちていますが、鼻薬を嗅がせてますので、北面の門扉は開け放たれるかな?」
は。さっすが七乃。手回しがいい。
だが、それに風が異を唱える。
「今現在洛陽の警備は董卓さんの手中にあります。それはあからさますぎやしませんかねえ。
囲師には必ず逃げ道を用意すべしと申します。
そちらは危うい道かと〜」
- 9 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/20(水) 21:17:28.31 ID:trIZpCq90
- むむむ。そこいらへんどうなのよ、七乃ってば。
「そうですねえ。正直洛陽に於いてはまだまだ情報網は整備できてないのが現状です。
……ただでさえ黄巾の乱と袁胤様の乱で腕利きの細作がいなくなりましたからねえ。
ですから、私からはなんとも」
……多分それは七乃にとっては屈辱だろう。諜報がための張家であるのだから。
それでも、張り付いた笑みでこう言ってくる。
張家の面目なんて、勝ってからいくらでも立てますから、と。
つまり、それほどの窮地なのだ。今は。
だったら、逃げるにしても全力を尽くさんと不味いな。
「屋敷にある甕、壺、そして匣(はこ)を馬車で連ねて北面へ。
風、頼んだ」
「囮ですね、任されました〜」
だが、それだけでは時間をそんなに稼げないだろう。あっちには地の利がある。
「時間稼ぎは任せてもらいやしょう」
うっそりと、それでも確たる意思を込めて雷薄が口を開く。
「皆々様、ごゆるりと。きっちり時間を稼いでみまさあ!」
呵呵大笑。
体中に走る傷跡。兵卒から紀家軍の副将まで登り詰めた運も実力もある古強者(ベテラン)が、ぶ厚い胸を叩く。
「なーに。董家軍とは知らぬ仲でもないですからねえ。
いよいよとなったら降りますよ。
……ようやくにも授かった初孫の顔を拝むまでは死んでも死にきれないですから!」
「ああ、そうか。だったら任せる」
迷う暇なぞない。
俺の言葉に、いかつい顔を綻ばせて、どすどすと足音も勇壮に室を去る。戦の準備なのだろう。
いくら降ることが前提とは言え、時を稼ぐには武威が必要だからして。
「それでは、華麗に遁走するとしましょう。でも、その前に……」
麗羽様、そして美羽様に相対する。
「ええと、流石にそのままでは無理があるのです」
きょとんとしたお二人になんと切り出したものか。
いや、なんだ。
貴女達、煌びやかすぎて悪目立ちするから遁走とか無理っぽいんですよとか――!
◆◆◆
- 10 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/20(水) 21:18:26.40 ID:trIZpCq90
- 「アニキー荷物こんなもんかな?」
「おう。金目のもんは置いてけ。時間稼ぎになる。時間が金で買えるなら安いもんさ。
服も着替えろよ。絹の服とかいっぺんでばれるからな」
うっそりと言うと、えへへ、とばかりにすり寄ってくる。
「分かってるってばー。そこいらへん、アニキの分も含めて斗詩が用意してくれてるよ?
それはともかく、姫にはアニキからよろしくなー」
やっほうとばかりに身を翻して駆けていく猪々子。いや、なんか元気をもらった気がする。というか。
あんな目で見られたら、へこんでられんわなあ……。
「もう、ごわごわしますわねえ。それにこう、安っぽいというか、無粋と言うか……。
いやですわ二郎さん。そんな、見ないでくださいな。見れたモノではないと云うのはわたくし自身が一番分かっておりますの」
粗末な、つぎはぎだらけの衣服を身に纏って麗羽様と美羽様が。
「や、正直これほどまでとは思ってなかったですよ。
こんなにも、纏う衣服に関わりなく光輝あるとは思いませんでした」
いや、隠密行動するためには本当に駄目なんだよ。なんか満足げな姉妹にこれを言うのは気が咎めるなあ。
でも逡巡する余裕もないしなあ。
「どうしましたの?」
「いや、そのですね。お二方の光輝が隠しきれないのですよ。主に、その輝く御髪(おぐし)で……」
麗羽様に至ってはくるくる縦ロール全開なのだ。
なんでも専用のセットのための器具があるらしい。歴史考証仕事しろ。
俺の言葉に麗羽様は苦笑して美羽様に顔を向ける。
「美羽さん。時として美しさは罪なのです。どうやらわたくしたちはその存在だけで世界の注目を集めてしまうようですわ」
「むむ、麗羽ねーさま。よくわからんが、それはまずいのではないかや?」
「その通りですわ。ですから、こうするのです!」
ばさり、と金色の欠片が地に墜ちる。
手にした短刀で麗羽様が自らの御髪をばっさりと切り捨てたのだ。
「美羽さん、よろしいですわね?」
無言でこくりと頷く美羽様の、蜂蜜色に輝く御髪をいっそ無造作に。
「二郎さん、これで身軽になったでしょう?」
ええと。
お流石でございます麗羽様。
でも。
「あ、あんなにお見事な御髪でしたのに……」
そうするべしと思っていても、口から出るのはそんな言葉。いや、軟弱者!
そんな風に思うのは感傷なのだろう。それを覆い尽くすが如く、暴風が吹き荒れることになる。
「はいはーい。これでもくらえ!ですー!」
ぶはり!とばかりに視界が灰色に染まる。
「みなさん、もっと薄汚くないといけませんよー」
どっから集めたか知らんが、大量の灰を俺たちにぶつけて七乃はにこやかに笑う。
――抗議の声を上げられなかったのは。彼女が、七乃が。
普段は絶対に身に付けない黒装束に身を纏っていたからだ。
どうやら、本当に生きるか死ぬかの局面なのだな。
「それでは、参りましょうか」
「頼んだ」
そうして俺たちは、洛陽の夜闇に踏み出すのであった。
- 11 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/20(水) 21:19:03.68 ID:trIZpCq90
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名案は
「大脱走」
よさげなの、よろしくお願いします。
- 12 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/21(木) 00:03:51.76 ID:NRPsOLXBo
- 乙です
さーて緊迫感が高まって参りました
しかしショートの袁姉妹とかそれはそれで見たいですよね、絶対美人さんですよ
題案は
『灰被り達の逃走』
などと。
- 13 :青ペン [sage]:2019/11/21(木) 03:29:49.37 ID:vK0h7L80o
- >>11
新スレ乙からの乙なんだよ
むむむ…
今回は敢えて【run for survive】
- 14 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/21(木) 21:52:10.25 ID:2+Mbb2E/0
- >>12
どもです。
>さーて緊迫感が高まって参りました
あと3-6シーンでこの章完結予定です
>しかしショートの袁姉妹とかそれはそれで見たいですよね、絶対美人さんですよ
俺になあ、絵心あればなあw
絶対美人さんなんだよなあ
>『灰被り達の逃走』
ミスリードもできそうでよいですね。遁走のほうがいいかもしれないまである。
ほむ。
>>13
どもどもです。
>今回は敢えて【run for survive】
オサレ!でも英字はよっぽどじゃないとやらんです
だってニュアンスが制御できないもの
しかし、今月中に終わらせて冬休みあたりにあっちで投下っていけそうやで!
- 15 :青ペン [sage]:2019/11/22(金) 03:09:11.81 ID:fCnhQmIWo
- >>14
(後ろにに〜逃走中〜ってつけるか迷ったのは内緒だよ)
- 16 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/22(金) 06:36:33.66 ID:5pK+deHNO
- 「明日への転進」なんてどうでしょう
- 17 :赤ペン [sage saga]:2019/11/22(金) 18:07:08.10 ID:OHSFnRog0
- 乙でしたー
>>8
>>囲師には必ず逃げ道を用意すべしと申します。 意味は分かりやすいので良いと思いますが
○囲師には必ず闕(か)くと申します。 原文はこれかな?もしくは【囲師は周することなかれと】とか?なんかちょっと気取った言い方をするのはもはや習慣(そんな事するから後世の人が意味を解読しなきゃならなくなるんだよ…古文なんて嫌いだ!
>>9
>>うっそりと、それでも確たる意思を込めて雷薄が口を開く。 これって【うっとり】とほぼ同じ意味なんですよね
○のっそりと、それでも確たる意思を込めて雷薄が口を開く。 【のんびり】とはちょっと違うけど動きが遅い。と言う意味ならこれかな
>>きっちり時間を稼いでみまさあ!」 喋り言葉だと分かり難いけどこれって《時間を稼いでみますよ》になるのかな
○きっちり時間を稼いでみせまさあ!」 だとしたら《稼いでみせますよ》になる方が良さそうかな
>>10
>>うっそりと言うと、えへへ、とばかりにすり寄ってくる。 こっちは慌てないためにあえてそう振る舞ってる感じもするので
○おっとりと言うと、えへへ、とばかりにすり寄ってくる。 二郎らしくないか?あとは【のほほんと】とか【のんびりと】とか?
雷簿!約束だからな!!いよいよとなったら降るって紀霊も袁術も袁紹も聞いたからな!口約束だからって破ったりしたらのk…故郷の家族がどうなるか分かってるよな!?
その髪の毛ガチで金になりそうよね…昔の鬘の材料的に。なんとなく七乃が懐に忍ばせてそうだけどまさかね
- 18 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/25(月) 21:57:22.31 ID:sTNFGTqg0
- >>15
w
そういうことかw
>>16
よきです。
いい。こういうセンスは一ノ瀬にはないもので、嫉妬すらしてしまう。
>>17
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>雷簿!約束だからな!!いよいよとなったら降るって紀霊も袁術も袁紹も聞いたからな!口約束だからって破ったりしたらのk…故郷の家族がどうなるか分かってるよな!?
これ言った時にどういう覚悟を決めていたか、ということですよね。
故郷の家族は、雷薄が儚くなったら優遇されますよね?
>その髪の毛ガチで金になりそうよね…
そのネタは黄金拍車で割と効きます
多分無為に炎となるのではないかな(ネタバレ)
- 19 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/25(月) 22:22:45.05 ID:sTNFGTqg0
- 七乃に先導されて俺たちは夜の洛陽をひた走る。足音一つ立てず――黒装束もあって――ともすれば見失いそうになるほど七乃は穏行していて。彼女の本領を改めて認識する次第である。
通りごとに足を止め、手鏡で先を慎重に確認しているのに追いつくのも一苦労である。
治安のよろしくないエリアを通っているので、そこいらのごろつきに絡まれそうになることもあるが、猪々子が瞬時に黙らせる(物理)。
七乃に続くのは猪々子、麗羽様が続いて美羽様を背負った俺を斗詩が後ろでフォローしてくれている。そんな構図(フォーメーション)である。
迷いなく進む七乃。いや、実際大したものである。
基本、何進という裏表に絶対的な影響力がある存在があった。その手前、洛陽では諜報活動を自粛していたのだが、美羽様入内が決まってからは精力的に動き回っていた、みたいです。
きっと、今進んでいる道だって彼女の地道な積み重ねがあってのルート選定なのだろう。
そして、目的地にたどり着く。そこは門扉……などではなく、洛陽を取り囲む防壁である。
「はい、到着しましたー。ひとまず私のお仕事はここまでですねー」
そ、と視線を外に向け、索敵を。いつ追手が来るか分かったもんじゃないしな。いや、雷薄や風がうまいことひきつけてくれているとは思うのだが。
「じゃあ、私達の出番ですね」
にこり、と斗詩は笑って準備運動を始める。背負った荷物を下ろし、ゆっくりと柔軟体操(ウォヲーミングアップ)を始める。
それは、いつも俺たちの鍛錬の前にやっていたルーチン。万全を期すためにもこれは外せない。
「頼むぜー、斗詩ー。アタイらの未来は斗詩にかかってんだからさー」
にひひ、とお気楽な口調で猪々子が煽る。
「うん。文ちゃん。そうだね。今、すごく気合いが入ってるよ。すっごく身体が軽い。怖いものなんてない。
そう。絶好調、ってやつかな」
斗詩にしては珍しくそんな軽口を叩く。屈伸、そして伸び上がり、軽く跳ねる。
にか、と猪々子は笑ってこちらを見る。
「アニキ、アタイらはいつでもいいぜ」
軽く頷き、三尖刀を手にする。
俺の身体能力はこの二人に及ばない。だが、こいつの力を発動させることで俺の力は猪々子に匹敵するのである。
これを知るのは袁家でも限られた面子。そしてこの子らはずっとそれを知っていて。その上で俺を。
「よしこい!斗詩!」
三尖刀に何かが吸われ、全能感が身体に満ちる。筋肉の一筋、細胞の一つまでもが活性化されたようなそれに意識を馴染ませる。
俺と猪々子が並び立つその中央めがけて斗詩が全速力で走ってくる。一陣の風となり、踏み込む。
- 20 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/25(月) 22:23:11.36 ID:sTNFGTqg0
- 「そおおおおおおおおおおおおおおおい!」
斗詩のその運動エネルギーを、ベクトルを上方に置換する。捕えた足からもたらされる運動エネルギーを全て上方に変換して跳ねあげる。いけ!
ぶち、と筋肉の切れる音が内側から響くのも構わずに。
「ああああああああああああ!」
猪々子の絶叫がかすかに耳に入る。
そう、これは昔日によくやった遊びの延長。どれだけ高く飛べるかを競ったそれの延長。
違うのは、その行為にかかっているものが大きいということ。
見れば、ぎゅん、と斗詩は上昇を続ける。跳んでいく。斗詩の運足の妙あってのことだ。俺や猪々子ならば城壁にぶち当たってしまう。
ぐんぐんと上昇し、その最頂点に達しても流石に城壁の頂上には届かない。だがそれは織り込み済み。
ギン!と鋭い音が響く。いつの間にか手にしていた双剣を、見事詰まれた石の隙間にねじ込んだのだ。
「――ふう、うまくいったか」
「そう、みたいだね。
よかったぁ」
ぎゅ、と猪々子が後ろから抱きついてくる。僅かに振るえているのはそれでもやはり心配なのだろう。
これからが斗詩に無茶振りした正念場である。
「きっと、大丈夫だよね?アニキ……」
双剣だけを頼りに、少しずつ斗詩が登り始める。石の隙間に双剣を突き立て、その身体をじり、じりと持ち上げていく。
突風の一つもあれば飛ばされそうなほどそれは危うくも見える。
「斗詩さん……」
心配そうに麗羽様が俺に縋り付いてくる。美羽様は無言でぎゅ、と。
ええい、見守るだけの身が情けない。
急速に力が抜けていく感覚に身を委ねながら、俺は無言で斗詩を見守ることしかできない。
どれだけの時間が過ぎたのだろう。永劫とも思えるそれは案外そうでもなかったのかもしれない。
じりじりと、それでも確実に上る斗詩。まあ、たまに剣が弾かれた時にはもう心臓がタップダンスを踊ったものだが。
それでも、ようやくに城壁の上に到達したのを見て。
「よ、よかったあ」
門扉が警戒されてるならば城壁を越えればいいじゃないというのを通しきったのだが、精神的に疲れた。いや、多分一番疲れたのは斗詩だろうけども。
「はいはーい。二郎さんは周囲の警戒お願いしますね。ここまできて捉えられたら意味がないですし」
にこりと笑って七乃が壁際に立つ。
――呆けていた俺たちに代わって周囲を警戒していてくれたのだと今更ながらに気づく。
- 21 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/25(月) 22:23:38.33 ID:sTNFGTqg0
- 「それでは、お先です。美羽様、お待ちしておりますねー」
斗詩が落としてきたロープをノールックで掴み、軽やかに駆けあがる。
うん、登攀するというよりは駆け上がるというべき速度で、たちまちに登り詰める。
「うし、次はアタイだな。アニキ、何かあったら呼んでくれよな。駆けつけるから」
いや、駆けつけるというか飛び降りるって感じだろうが。そんな突っ込みをするまでもなく、猪々子も軽やかに昇っていく。
俺ときたらこの場では役立たず一直線なのに、信頼が重い。頑張る。
そしていよいよ俺たちの番だ。
垂れるロープを腰に巻きつけ、美羽様を背負い、麗羽様を――。
「失礼します」
真正面から抱きかかえる。常ならば落とす不安なぞないのだが、今の俺にそんな筋力があるかは疑問。
それを知っている麗羽様は、ぎゅ、と俺にしがみついてくる。
「二郎さん……」
ずり、ずりと引き上げられる。猪々子が引き上げているのだろう。あっという間に洛陽の街を見下ろせるほどの高さまで到達する。
振り向いて袁家の邸宅らしきを灯りを探す。
ほ、と息をつく。どうやら、火は放たれていないようだ。
ぎり、と歯を噛みしめて呟く。
「雷薄。死ぬなよ……」
ぎゅ、と背後から伸ばされた手、俺に抱きつく手が震えた気がした。
「ここから出て、当てはありますの?」
微かに振るえながら麗羽様がそんなことを問うてくる。
「勿論。まあ、伊達に放浪しちゃいませんって」
軽薄に応えながら、思う。
雷薄、風。無事でいてくれよ、と。
- 22 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/25(月) 22:25:19.65 ID:sTNFGTqg0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
題名募集しまくりんぐですよ本当に!未定です。
何もなければ遁走とかになります!
あと4エピソードくらいで終わりそう
なんとか上皇様のお誕生日には再開したいものです。
がんばゆ
- 23 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage]:2019/11/25(月) 23:05:42.60 ID:CxclsI7TO
- 「勝利への脱出」って書こうと思ったらまんま昔あったスタローンのサッカー映画のタイトルだったww
- 24 :青ペン [sage]:2019/11/26(火) 05:08:46.76 ID:aXQ+BbN6o
- >>18
はい、そーゆーことです(笑)
- 25 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/11/28(木) 21:43:18.03 ID:+YAhAMYQ0
- >>23
どもです。
あれ、スタローンがGKやってるやつですよね
地味にペレが出てて草生えましたな
アクションがサッカーで超地味な感じという印象w
>>24
くさ
- 26 :赤ペン [sage saga]:2019/12/02(月) 16:44:37.69 ID:qofE6UVT0
- 乙でしたー
>19
>>七乃に続くのは猪々子、麗羽様が続いて美羽様を背負った俺を斗詩が後ろでフォローしてくれている。 接続詞に違和感が
○七乃の後ろに猪々子、そして麗羽様が続いて美羽様を背負った俺を斗詩が後ろでフォローしてくれている。 こんな感じでどうでしょう
>>ゆっくりと柔軟体操(ウォヲーミングアップ)を始める。 ケアレスミスですね
○ゆっくりと柔軟体操(ウォーミングアップ)を始める。 こうですね
>>20
>>その最頂点に達しても流石に城壁の頂上には届かない。 【頂点】に既に最もの意味があるので
○その最高点に達しても流石に城壁の頂上には届かない。 もしくは【その頂点に達しても】の方がいいと思います
>>見事詰まれた石の隙間にねじ込んだのだ。 すし詰め的な?
○見事積まれた石の隙間にねじ込んだのだ。 こうですね
>>僅かに振るえているのはそれでもやはり心配なのだろう。 これだと《剣を振る》とかの意味ですね
○僅かに震えているのはそれでもやはり心配なのだろう。 こうですね
>>21
>>そんな突っ込みをするまでもなく、猪々子も軽やかに昇っていく。 【するまでもなく】だとちょっと意味が違うような
○そんな突っ込みをするひまもなく、猪々子も軽やかに昇っていく。 もしくは【する間もなく】でもいいですね
>>振り向いて袁家の邸宅らしきを灯りを探す。 【を】が多いですね
○振り向いて袁家の邸宅らしき灯りを探す。 それとも【邸宅らしき辺りを探す。】でしょうか?
>>微かに振るえながら麗羽様がそんなことを問うてくる。 さっきの震えは雷簿を思って、今度の震えはこの先を思って、かな?
○微かに震えながら麗羽様がそんなことを問うてくる。 大丈夫だ、問題ない(震え声
猪々子もどちらか代わってあげれば…いや実際最後の3人の場面で襲われたら二郎ちゃん2人足手まとい護りながらはかなりきついぜ
そして斗詩が凄い勢いでフラグ立てて「こいつぁやべえぜ」って思ったねw
- 27 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/02(月) 22:00:09.75 ID:CvCetfbh0
- >>26
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
さて。
>猪々子もどちらか代わってあげれば…いや実際最後の3人の場面で襲われたら二郎ちゃん2人足手まとい護りながらはかなりきついぜ
むしろ二郎ちゃんも足手まとい状態です!
なのでさっさと三人引き上げようという態勢ですね。
七乃さんに周囲警戒任せて引き上げ斗詩猪々子。
非常時には(消耗度合いの高い)斗詩が飛び降りて壁となる感じでした。
実はここは追撃戦が設定されてたんですけど、七乃さんの隠密スキルが活きてしまったのです。
本気になった七乃さんはすごいなあ、と観念したのでした。
しゃあない。
物語的には脱落者が出た方が美しかったとは思うのですけどね。
ここらへんは内緒でござるよ。
- 28 :赤ペン [sage saga]:2019/12/03(火) 10:19:51.11 ID:fQc/ZrE10
- ゲーム世界、漫画世界に転生モノで主人公が【原作を知ってるけどある日気づいたらその世界にいた】タイプのモノって二次元キャラが三次元になった違和感はどの程度なんだろうか
特に髪の色とか目の大きさとか…たまに【知らない天井だ→ふと鏡を見るとそこには大好きなゲームの誰誰の顔が!】みたいなのあるけど見える世界そのものの現実との違いがありそう。趙雲の髪?ハハッ
- 29 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/03(火) 21:02:49.60 ID:lI6EtF5s0
- 脳内くちゅくちゅされて違和感が仕事しない、だと闇が生まれるます
あくまでディフォルメだけど、そのキャラだと分かるってどういうことだってばよ
- 30 :赤ペン [sage saga]:2019/12/04(水) 09:44:26.75 ID:VA/eXJld0
- 銀魂(実写)の世界なら銀魂世界だと気付きつつ違和感も少ないかもしれないかな?
DB(ハリウッド)の世界に転生したよ!とかだったら主人公がそれを受け入れられるか…
ネギ魔も確か実写があったっけ…とはいえアニメや漫画やエロゲの可愛いorエロいキャラをリアル化されてそう受け止められるのか
- 31 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/04(水) 21:02:54.65 ID:c1wVtIMX0
- 銀魂はイメージしやすいですねえ
見た瞬間銀さんとか神楽ちゃんとか分かりますし
ああいうレベルで脳内変換されるのかなあ
しかし平穏に生きようとして自分の容姿が銀髪オッドアイとかだったら草生えるw
無理じゃんw
- 32 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/04(水) 21:58:07.10 ID:c1wVtIMX0
- 「総員、傾注!」
白を基調とした甲冑に身を包んだ雷薄が居並ぶ部下に喝を飛ばす。
いや、厳密に言えば彼ら彼女らは直属の部下ではない。袁紹、袁術。そして四家の長に仕える近侍たち。
いずれも素性の正しく、将来を嘱望される幹部候補生たちである。いずれは彼らが袁家を担っていく。そうなってもらわないといけない者たちだ。
そんな、まさに人財を雷薄は睥睨し、躊躇いなく使い潰すことを選択する。
多くは言わない。
「まことに済まんが、死守だ!」
明敏な彼らにはそれだけで十分。これから稼ぐ時間により仕える主たちの命を贖うのだ。贄となるに異存はない。
「いやー、参ったなー。でもまあ、ここが踏ん張りどころってね!」
へらへらと鉄鞭を手にした青年が口を開く。口先の英雄とも言われる彼は正直荒事には向いてはいないが、この際そうも言ってられない。
「はいはい、泣き言は後でたーっぷり聞いてあげるから黙ってようね。おじさんたちの頑張りが袁家の命運を握っているんだからさ」
鷹の目、と異名をとる少女が混ぜっ返す。
「はうー。かあいいかあいい美羽様のためだもの。頑張っちゃうかな、かな」
かつての如南攻防戦にて功績を挙げ、袁術の真名さえ許された彼女が笑う。
彼ら彼女らはけして使い潰していい人材ではない。雷薄は苦虫を噛み潰したような顔で内心詫びる。
……雷薄の生まれは貧農の三男坊だ。食うに困って軍に志願したクチだ。腕っぷしには自信があった。が、野盗になるのは嫌だった。彼自身が貧農出身だったから、だ。
それに、畑を耕すよりは兵隊になった方が女にちやほやされるだろう。そんな思いもあった。
恵まれた体格と膂力で頭角を現し、あの匈奴戦役でも生き残り、武勲も立てた。気が付けばまさかまさかの大出世である。
だから、自分に関しては命燃やす時は今と決意している。巻き込む若人らに詫びる言葉を雷薄は持ち合わせてはいない。
いや、それでも。
それでも死んでくれと言わなければならないのが指揮官というものなのだろう。
きっと目の前の彼らはそんな逡巡すら見抜いてなお自分の判断に付き従ってくれるのだろう。
では自分も、彼らに相応しい立ち振る舞いをせねばならない。
「では、多くは言わん。一秒でもいい。我らが主君を逃がすための捨て石として、死兵となってくれ」
言い捨てて、門扉に向かう。
既に此処は戦場。既に包囲されている。まさに、死地であった。
- 33 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/04(水) 21:58:33.34 ID:c1wVtIMX0
- ◆◆◆
「貴様ら、ここが四世に渡り三公を排出した名門袁家の当主、袁紹様。
そして畏れ多くも入内が決まっている袁術様の逗留先と知っての狼藉か!
ただちに立ち去れい!下郎ども!」
隠しもしない殺気を込めて雷薄が威圧する。
場を圧倒するその声量。それは紀霊が高く評価するもの。堂々とした体格から発せられるそれは質量すら感じさせるほどになり、並の胆力では抗うことすらできない。
「その袁紹殿に用がある!袁紹殿はいずこにおわすか!お目通り願いたい!」
であるから、それでもなお怯まずに述べる彼の胆力は評価されるべきであろう。
雷薄の威圧に刹那怯むも朗々と用件を述べる。
「既に時間も遅い!明日出直すがよかろう!」
門前払いである。が、それを予想していたのだろう、気圧されることなく歩を進めてくる。
「ええい、話にならん。ことによれば力ずくでもいいのだぞ――」
取り囲むは数百。守るは十数名。力押しされたならば鎧袖一触であろう。
さて、どうしたものかと雷薄が考え込もうとした時。
「行きます」
雷薄の横を通りながら、口も動かさずに伝える。
それで張家所属と分かる。
その極秘の話法。それこそは伝え聞く張家の秘伝の一つ。
それに彼女は如南攻防戦にて袁術から真名を許された英傑の一人である。そうと知って雷薄は覚悟を決める。
どうせどん詰まりなこの状況。動かすならば彼女のような英傑が相応しい。
そして火消しならば慣れている。得意というのは語弊があるだろうが。
- 34 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/04(水) 21:59:00.41 ID:c1wVtIMX0
- ◆◆◆
「呂家軍の将軍様。
ご進言が。ご進言があるのです」
気弱げな口調、しとやかな仕草。女官としての気品、そして漂う色気に対した呂家軍の士官は。
「ほほう、どうしたというのかね」
前に出てしまう。
「ああ、そこにいられましたか。
耳寄りな情報がございます。お求めになっているものです」
歩を進める女官がしゅるり、と帯を緩める。
媚びを売ろうというのであろうか。その身体で何かを贖(あがな)おうというのであろうか。
その期待にごくり、と生唾を飲み込み、更に数歩進み出る。
ゆるり、とした運足。ゆらりとした脱衣。彼女が場を支配していたからこそ、達した。
「しゃおらぁあああああ!」
闇に紛れての一撃。衆に混じりて成した会心の一撃。まさか後方から、自軍から成されるとは思ってもみない。
だからそれはまさに必殺。
会心の雄叫びを上げるのは、これもまた如南攻防戦の英雄。
兵士を、領民を鼓舞し士気を高止まりさせた口先の英雄。
そして今ここに、口先だけではないことを証明した。彼の手にした鉄鞭は見事に指揮官の頸椎を砕き、返す一撃で顔面を粉砕する。
「は、ちょろいもんだぜ!」
残心もそこそこに先の女官に並び立つ。
両者が纏うのは黒装束。
「あはは、流石だね!
知ってたけど、ここでそうくるかー。
私がやっちゃうつもりだったんだけどなあ。
これは、負けてられないなあ」
すらり、と女官が構えるのは鉈、のようなもの。
男と背を合わせ、周囲を睥睨する。
「まあ、俺だってたまにはいいとこ見せないと、な」
「そうだね。うん、すっごく格好よかったよ」
「俺に惚れたら火傷するぜ?」
「だったら、それもう手遅れ、かな。今更だし。
全身火まみれで、燃え上がっちゃったよ」
軽口を叩く二人を取り囲むのか、袁家邸宅に突入するのか。指揮官なき董家軍。
その揺れを歴戦の雷薄は見逃さない。
轟く声。
重低音のそれは場に響き渡る。
かつて紀霊が、夏候惇にすら匹敵するとまで評したそれは場を支配する。
「総員、突撃ぃ!
袁家の存亡ここにあり!踏ん張れい!」
指揮官先頭は紀家の伝統とばかりに雷薄は吶喊する。連携なんぞは激戦のうちに生まれるものである。
そして、力の限り足掻いて見せよう。
それが今の自分にできる最善であると信じて。
手にした得物を振りかぶり、矢嵐を受けながら雷薄の口元はニヤリと吊り上っていた。
- 35 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/04(水) 21:59:26.73 ID:c1wVtIMX0
- ◆◆◆
「誰かある!」
応えは、ない。
初手において敵指揮官を潰し、一時は優勢ではあったが流石に多勢に無勢。
統制なくとも数の暴力に押されて下がりに下がって背にした扉は屋敷の最奥。
ここが突破されればここに袁家首脳がいないことが決定的に露見してしまう。そんな最終防衛線にいるのは雷薄ただ一人。
幾多の勇士既に散った。散ってしまった。
「やらせるものかよ……」
それでも雷薄は気力を振り絞って迫る敵を睨む。
白を基調とした甲冑は返り血のみならず自ら流した血で紅く染まっており、修羅もかくや、という姿である。
幾本も矢が突き刺さり、傷からは血が流れ出て意識が白くなりそうである。
いや、実際気が付くと膝をつき、倒れ込みそうになる。
数瞬意識すら手放し、顔を上げるのも億劫だ。
それを好機と見たか、或いは力尽きたと見たか、敵兵がとどめとばかりに槍を突き立ててくる。
その激痛すらどうでもよいとばかりに倒れ伏したくなる。
それでも、それでも。
「やらせはせん!やらせはせんぞ!貴様らごときに、やらせはせん!
袁家の栄光を!世の平和を!やらせはせん!」
吠えて手にした得物を振るう。暴風がごときその勢いに押されて包囲の輪は距離を取る。
「ここを通りたくば!俺の屍を越えていけい!」
仁王立ちする雷薄は凄絶に笑い、威圧する。
その威を畏れ、矢嵐を以って無力化しようとするも揺るぎもしない。
むしろ呵々大笑して煽るほど。
さしもの董家軍が、その武威に三度下がったという。
絶命してなお威圧する武威は後世語り草になった。
- 36 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/04(水) 22:01:04.44 ID:c1wVtIMX0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
難産でした。
題名案
「防戦」
ネタ案
「暁に雷薄死す」
いやもうjほんとにお助けくだしあー
後少しで区切りだがそれが遠いよ助けろくだし
- 37 :青ペン [sage]:2019/12/05(木) 00:21:43.81 ID:28k68zu1o
- >>36
乙なんだよー
歴連の猛将、命賭して民草を護る
でどない?
- 38 :赤ペン [sage saga]:2019/12/05(木) 15:41:24.03 ID:OnfMPz4J0
- 乙でしたー
>>32
>>白を基調とした甲冑に身を包んだ雷薄が居並ぶ部下に喝を飛ばす。 【喝】だと叱責とかの印象があるので(例えばざわついてて落ち着きないとかならともかく彼らは後の幹部候補とあるのでそういう事はなさそう)
○白を基調とした甲冑に身を包んだ雷薄が居並ぶ部下に檄を飛ばす。 コトバンクさんによると《自分の主張や考えを広く人々に知らせ同意 を求める。また、それによって人々に決起を促す。》なのでこれでどうでしょう
>>袁紹、袁術。そして四家の長に仕える近侍たち。 この書き方だとこの場に袁紹、袁術がいる様にも読めるっちゃ読める(言いがかり
○袁紹、袁術、及び四家の長に仕える近侍たち。 もしくは【袁紹、袁術……そして四家の】とかかな?
>>口先の英雄とも言われる彼は正直荒事には向いてはいないが、 《彼》の異名は口先の魔術師だけど【口先の英雄】って揶揄っぽくない?
○弁舌の英雄とも言われる彼は正直荒事には向いてはいないが、【演説】、【口舌】、【弁論】、【饒舌】…この辺が良さそうかな
>>34
>>全身火まみれで、燃え上がっちゃったよ」 【火まみれ】…言わなくはないけど何となくこれだと【火の粉にまみれてる】感が
○全身火だるまで、燃え上がっちゃったよ」 それとも【火あぶり】?全身火傷してるような表現ならやっぱり【火だるま】かなあ?
>>35
>>いや、実際気が付くと膝をつき、倒れ込みそうになる。 これは(気を一瞬失って)気が付くと、という意味かしら?それだと実際に膝は着いた?ううむ
○いや、実際気を抜くと、膝をつき倒れ込みそうになる。 (一瞬でも気を抜いたら)膝をついて倒れ込みそうだ。と言うならこうかな?
○いや、実際気が付くと膝をつき、倒れ込みそうになった。 ふと気が付いたら膝をついていた、あと少しで倒れ込むところだった。ならこうですね
>>さしもの董家軍が、その武威に三度下がったという。 《さしもの孔明が騙された》とかだとちょっと違和感があるので
○さしもの董家軍も、その武威に三度下がったという。 《(勇敢で知られる)さしもの董家軍(ですら)も》を縮めた言い方と思えば
信念に殉じて死ぬなんて漢としてはさいこうだろうけど約束を反故にされた上司とか残された家族としては溜まったもんじゃないぞ!!…いやまあ皆うすうすは彼らがここを死地と定めたことを分かってたけどさ(美羽様も多分感付いてたよね
【死中に活を見る】…自分の命を公平な重さで天秤に乗せたこの20人弱が生きていればこの先袁家がどれだけ楽だったことか
- 39 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/09(月) 20:19:47.24 ID:sH1+4U600
- いやあ、師走師走。
割と忙しいですね。さっさと仕事やめて隠遁したいものです。
仕事やめたら社会貢献するんや。
>>37
どもです。
>歴連の猛将、命賭して民草を護る
素敵すぎです。
浪漫ですね。
流れるようなその表現、妬ましい
>>38
赤ペン先生いつもありがとうございますー!
>信念に殉じて死ぬなんて漢としてはさいこうだろうけど約束を反故にされた上司とか残された家族としては溜まったもんじゃないぞ!!
本人はやりきった感ですね。
周囲は「ちょ、待てよ!」状態
美談になるエピソードですが、ご指摘の通りなのは確定的に明らか。
それでも彼は何度でも同じ選択をするでしょう。
さて、虜囚になって交渉材料とされることを拒んだのか的な指摘が外部からきましたが、
多分そこまで考えてなかったんじゃないかなー
ただひたすらに目の前の案件を処理する現場指揮官なのであろうと
>…いやまあ皆うすうすは彼らがここを死地と定めたことを分かってたけどさ(美羽様も多分感付いてたよね
そこはどうでしょうね。つきあいの長い七乃さんくらいかな?
少なくとも二郎ちゃんは全く勘づいていません
>【死中に活を見る】…自分の命を公平な重さで天秤に乗せたこの20人弱が生きていればこの先袁家がどれだけ楽だったことか
実際、十年単位で人事を考えている袁家にとっては晴天の落雷ですものね
ものっそいコストかけて教育していた珠玉の人材が……
そらもうね、人の情としても、袁家の面子としても全力で潰さないといけないやつになります
あと一話で章が終わります
クリスマスくらいからあっち投下開始かにゃあ
- 40 :以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします [sage saga]:2019/12/10(火) 10:58:20.31 ID:lGWgJYZK0
- 猪猪子は勘で気づいてそう・・・あの子もいざとなったらそういうことするタイプだし
- 41 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/11(水) 21:17:21.09 ID:YdM4ueeZ0
- >>40
ああ、確かに!
猪々子は勘づいて層ですね。
あの子は大切なものを見失いません
じゃけんさっさと逃亡しましょうねー(本編ムーブ
- 42 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/11(水) 21:55:48.81 ID:YdM4ueeZ0
- 次々ともたらされる報告に賈駆は時に頷き、時に顔をしかめて次々と指示を飛ばす。
今のところ、想定の範囲内だ。
もとより最善の結果なぞ望むべくもない。時間的猶予などなく、根回しなんて何一つできずに蜂起せねばならなかった。ならなかったのだ。
李儒の要求はただ一つ。――何進の誅滅である。
何進、である。あの馬騰と互角の豪傑であり、この董家軍を引き上げてくれた恩人でもある。そしてその武勇は目の当たりにしている。彼を討つなぞ手持ちの札では呂布しかありえない。
最重要のそれは上手くいった。
だが、後は何とも言えない。
その馬騰については、張遼を宛てた。自刎して果てたというが、まあ、はなから抱き込めるとは思っていなかった。せめて虜囚とできればと思っていたのだが。
それでも、これで馬家軍は敵となる。だがそれもまた想定の範囲内。なに、それでも韓遂を動かせばなんとでもなる。馬騰ならばともかく、馬超相手であればどうにでもなるのだ。
朱儁についてもそうだ。軍権を示せば、万が一くらいには恭順するかと思ったのだが。
それもいい。禁軍の司令官が恭順しないのであれば除くのみ。この洛陽で執金吾たる董家軍の次に武力を抱えるは禁軍。その首魁を除けたのはまずまず。
張遼と陳宮は悄然としていたが、賈駆にとっては想定の範囲内。最悪は避けられたとすら思っている。
「なんですって……」
だが、続く報告にはさしもの賈駆も言葉を失う。
曹操の行方が知れないのはまあ仕方ない。宦官より情報が漏れていたのであろう。しかし、皇甫嵩までその足跡を追えないとは、不覚である。
彼奴はやっかいだ。禁軍にも影響力があり、なにより清流派の首魁の一人。どう蠢動するかなぞ考えたくもない。
苦虫を噛み潰していた賈駆に、とっておきの凶報がもたらされる。
「袁家当主袁紹の逗留地に於いて、現在交戦中!敵指揮官は雷薄!
奇襲により痛撃を喰らうも、現在優勢に戦局は推移しております!」
くら、と眩暈を覚える。
なぜ、と思う。平和裏に袁紹の身柄の確保を命じたのにどうしてそうなる。
それに雷薄だと?
匈奴大戦を生き残り、一兵卒から将軍までに出世したという立志伝の主人公もかくや、というほどの紀家の宿将が防衛戦に立つとはどういうことだ。
なによりどちらから仕掛けた。袁家と仕掛ける意味を分かっているのか。
- 43 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/11(水) 21:56:15.21 ID:YdM4ueeZ0
- 「な、なんですって!退きなさい!袁家との交戦は認めないわよ!」
その舌の根も乾かぬうちに派遣した指揮官が袁家の兵卒――あくまで董家軍からしたら一兵卒でしかない――により討たれるという報に呆然とする。
「な、な……!」
転がるように移りゆく戦況に自失する。
そして、貴重な。贅沢なその時間は失われた。
「敵指揮官雷薄討ち取りました!」
誇らしげに報告する士官に罵声を投げるのを辛うじて自重する。
いやあ、難敵でしたなどと得意げに語るその士官の口調に絶望する。これでは、これでは。
いや、自失していてはいけない。今でもできる最善を。
「よ、よくやったわ。天晴れ寡兵にて挑んだ彼の死を汚してはいけない。丁重に扱いなさい!首は塩漬けにしてけして腐らさないように!」
同時に、抵抗した兵卒――それが兵卒でないことには流石に賈駆も思いが至る。主の逃亡を助けるにあたり身を挺して刻を稼ぐなど――についても死体を汚さぬように厳命する。
せめて、せめてそれくらいはしないと交渉の席にもついてはくれないであろう。
袁家は、それくらい情が深いということを賈駆は知っているのだから。
それが幸か不幸かはともかく、である。
「なんでよ。なんでよ。なんでよぉ……」
がくがくと震える身体を抱きしめて、暫し賈駆はうずくまる。
せめてこの震えを配下には見せてはいけない。抱える腕に爪が食い込み数条の紅い筋が流れるのも構わずに。
それでも賈駆は立ち上がる。顔色は白く、唇は朱に染まっても。
- 44 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/11(水) 21:56:40.96 ID:YdM4ueeZ0
- それからの報せは、ことごとく凶報であった。皮肉にも賈駆の想定通りに。
曰く、曹操、行方分からず。皇甫嵩、行方分からず。
曹操はまだいい。宦官を手駒とした時からある程度こちらの動きを察されていたはず。あわよくば巻き込もうとしたが果たせず。
まあ、それはいい。
だが、皇甫嵩の不在は痛い。朱儁亡き今、禁軍に号令をかけられるのは彼くらい。せめて誅滅したかったと思う。
取り逃がした魚の大きさに歯噛みする。
「ほ、北面の大門に於いて袁家の一行を捕捉しました!」
だから、賈駆はそれにすがる。
なんとか、袁紹の身さえ確保すれば。あの、あの男に窮状を訴えればなんとかなるのではないかと。
だから今度こそはしくじるわけにはいかない。
「て、丁重に扱いなさい!ボクが行く!」
目の前に垂らされた蜘蛛の糸に飛びつく。
「二郎さえ……袁家さえ抱き込めば大丈夫、なんとでもなる。二郎ならばなんとでもしてくれる。
雷薄の討死についてはどうしようもないから、素直に謝ろう。そこで謀ったら取り返しがつかない。
もう、ボクはどうなってもいいからどうにかして二郎を懐柔しないと……」
馬を急がせながら賈駆はそれでも思考を放棄しない。
そして、彼女を待ち構えるのは、蜂蜜色の髪の、眠たげな少女であった。
紀霊が全幅の信頼を寄せる程立その人である。
「いやあ、これは参ったのですよ〜。風はこの荷物を南皮に届けるべし。可及的速やかに、と指示を受けたのですね」
ですから、夜半に北面の門扉を突破しようとしたのかと賈駆は程立を睨む。
「おおこわいこわい。いや、いささか誉められない手段であったのは自覚してますよ〜。
ですが、この北面についてはそれが常習化していたようだったので、風は風で最善を尽くしたまでなのです〜。
いや、これは命乞いをした方がよろしいのですかねえ」
くふふ、とほくそ笑む程立。わざとらしいその笑みはこちらの神経を逆なでるためのものであろう。そんな安い挑発に賈駆は乗らないしそんな暇もない。
「いいから袁紹殿と二郎を出しなさい。貴女じゃ話にならない」
その声に程立はにんまりとほほ笑む。それは微かであるも、わざとらしく、狩人が獲物を罠に嵌めた笑み。
「いやいや、ここにはそんなお偉方はおりませんので、お引き取り願えればと思うのですよ〜。
無論、洛外に出るのは明日以降にしますので〜。
こんなところで時間を使ってはいけないのではないですか?
老婆心ながら風は心配するのですよ。
ええ、二郎さんと浅からぬ縁のある貴女を風は心配するのですよ」
くふふ、と笑う程立になんと言ってやろうか。いや、そんなことに関わっている余裕すら自分にはない。
この一行の荷物は大きな匣であったり壺であったり。ややもすれば人が隠れるに相応しいもの。
ここで袁家当主たる袁紹。入内を控える袁術。そして彼女らに大きな影響力を持つ紀霊。いずれかを捉えるだけで状況は変わる。変わるのだ。
◆◆◆
――そして程立が率いる一行の、思わせぶりな荷からは誰一人発見できなかったのである。
- 45 :一ノ瀬 ◆lAEnHrAlo. [saga]:2019/12/11(水) 21:58:27.96 ID:YdM4ueeZ0
- 本日ここまですー感想とかくだしあー
この章最終話dす
案については 破綻 かなあ
もっと格好いいやつ募集しまくりんぐですよ本当に!
ほんとこれいつもお助け頂いております
ボスケティ
そして、クリスマスめどにあっちで投稿し始める見込みです
頑張るぞいっと。
頑張るので、オナシャス。
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