4: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:56:45.38 ID:86/EQe0g0
「定番のアンスリウムの仏炎苞も良いものを選んでいますし、芍薬もいい色合いですね〜」
実際に仕入れたのは父親だが、誉められれば嬉しい。
そしてその花々を誉める少女の横顔も、なんだか神々しい。いや、絵になっている。
「ただ〜」
「え?」
5: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:57:39.46 ID:86/EQe0g0
「花束に入れると、綺麗だから……」
自分で言って、驚いた。
そんなこと、店に並べた時は思いもしなかった。
なのにその言葉は、自然に出てきたのだ。
「……証明、できますか〜?」
6: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:58:27.63 ID:86/EQe0g0
私は店の花を見回すと、いく本かの花を手に取る。
「四種いけ……?」
少女のやや批難じみたつぶやきが聞こえたが、その意味はよくわからないし相手にしている余裕が今はない。
ただ一心不乱に、花束を作った。
これまでも「お任せで」と言われて花束を作ったことはあったが、ここまで集中して作ったのは初めてかも知れない。
7: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 12:59:19.43 ID:86/EQe0g0
「意に添わぬ花でも、生けた全体からすれば見事な一点になることもある……そう言ったと伝えられていますが。確かにこのラナンキュラスは調和がとれ、自身の個性も際立ちましたね〜」
もしかして、誉めていてくれてるのだろうか。
そう考えていた矢先。
「ですけど〜」
「え?」
8: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:00:11.83 ID:86/EQe0g0
「これ……生け花じゃないから」
「あ」
「花束だから」
少女は驚いた表情を見せるとしばらく後、心底可笑しそうに笑いだした。
「私としたことが、これは大変失礼いたしました〜。そうですね、生け花ではありませんでしたね……口げんかでは誰にも負けないつもりでしたが、これは一本とられましたね〜」
9: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:01:02.23 ID:86/EQe0g0
「このお花、おいくらですか〜?」
「え?」
「いただいてまいりますね〜」
「あ、ありがとう……ございます」
代金を渡すと、少女は笑顔で花束を抱いた。
10: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:01:48.37 ID:86/EQe0g0
「ほう、そんなことがあったのか」
「うん。大変だったよ」
夕食の席で、私は今日の顛末を話したのだが、鷹揚なお父さんと違いお母さんが厳しい声を上げる。
「だからもっとちゃんとお花のことを勉強しなさい、っていつも言っているでしょ」
11: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:02:30.09 ID:86/EQe0g0
「いいとも。ま、しかし凛も若いんだ。青春を……人生を賭けられるようななにかが見つかったら店のことはいいからな」
これはお父さんの口癖みたいなものだ。
お父さんは、自分が花に人生を賭けたように、私にも何かを見つけて欲しいらしい。
「そうね……でも、それまではしっかりお店のこと、頼むわよ」
この点ではお母さんも同じ思いらしい。
12: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:03:12.80 ID:86/EQe0g0
「あなた……」
「うん……凛、その娘はたぶん、華道の家元とかそういう家のお嬢さんだな」
「えっ?」
確かにあの娘、なんとはない気品というか風格みたいなものがあった。
同世代とはいえ、初対面の自分とも物怖じせずに話すような娘だ。
13: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:03:50.87 ID:86/EQe0g0
「だが華道では四という数字は、し……つまり死を連想させるとして忌避されていた」
「あ、それであの娘、ちょっと不満そうに四種いけ、ってつぶやいたんだ」
「ええ。けれどね凛、それは古いというか厳格な、ルールとも呼べないような考え方なのよ」
少し慰めるように、お母さんが言う。
「今現代の華道というか生け花で、そんなことを言い出す者はいない。母さんも言っていたが、それは古い考えだ。けれど格式とか伝統を重んじる、それこそ家元のような人たちはまだそれを重んじている」
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