36: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:24:20.62 ID:86/EQe0g0
私はその光景が嬉しかった。
たくさんの数と種類の花に囲まれても、朋花は負けずに美しくそこにいる。いや、彼女自身が周囲の花を引き立てている気すらする。
朋花ぐらいきれいだと、周りから浮いちゃうんじゃないかと思ったが、花の中の彼女はその美しさにおいて調和がとれている。
「意に沿わぬ花でも全体からすると調和がとれて美事な一点に見えることもある……か」
「はい〜?」
37: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:25:31.21 ID:86/EQe0g0
「凛さんは、よいお花屋さんになるかも知れませんね〜」
「花屋になる……か」
ふと、私は口ごもる。
そうなんだろうか。
そうなるんだろうか。
38: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:26:19.05 ID:86/EQe0g0
「気にしなくていいよ。でも……そうだね。確かに私が将来、花屋になるのはどうなんだろうね……」
しばらく朋花は押し黙っていたが、やがて真剣な顔で私に言った。
「向き不向きで言えば、今お話しした通り向いていると私は思いますよ〜。ただ、将来なりたいものというのは、向き不向きではなくやりたいかどうか、なりたいかどうかで決めるものですから〜」
「……ねえ、私が花屋になったら……この店を継いだら朋花は常連客になってくれる?」
また朋花は押し黙った。しかも今度はさっきよりもずっと長く黙っている。
39: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:26:57.74 ID:86/EQe0g0
朋花の家の稼業が何かはおおよそわかってはいるが、彼女もそれを継ぐかどうかで悩んでいるとは知らなかった。
だがどうやらそれは、楽しいことではないみたいだ。それは伝わってきた。
「朋花の家がなにやってるのか、なにを継ぐのか私は知らないけどさ」
「え?」
「継がない方がいいよ。朋花は、聖母さまになるんだよ。うん、それでいい」
40: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:27:44.40 ID:86/EQe0g0
「あ」
「あら〜」
別に待ち合わせたわけでも示し合わせたわけでもないが、ある日の日曜日に私たちは外で偶然出くわした。
「今日は子豚ちゃんたちは?」
41: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:28:24.67 ID:86/EQe0g0
いつも思うのだが、朋花の何気ない立ち居振る舞いは優雅だ。
これが品、というものなのかなと感心する。
「では、知らない者同士で、散策と参りましょうか〜」
「うん、いいね」
私たちは連れ立って歩き出す。
42: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:29:14.80 ID:86/EQe0g0
こういう時の彼女は、普段よりも幼い感じがする。
そう、彼女は入ったことのない花屋に行くのが好きなのだ。
「寄ってみようよ。ちょっとさ」
「……そう、ですね」
あれ?
43: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:30:28.37 ID:86/EQe0g0
「悪い予感が当たってしまったみたいですね〜」
「どういう意……」
私の問いかけが終わる前に、店の奥から先ほどとは別の女性が出てきた。
「……本日はどのようなご用件で?」
かなり強い口調だ。少なくとも歓迎されているとは思えない。
44: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:31:13.60 ID:86/EQe0g0
「ま、またのお越しを」
「え?」
「おじゃまいたしました〜」
「え?」
そそくさと退散するように店を出るその瞬間、店員さん同士の声が私の耳にも入ってきた。
45: ◆VHvaOH2b6w[saga]
2021/12/20(月) 13:32:02.45 ID:86/EQe0g0
「なんか、ごめん。朋花」
店を出て、私は朋花に手を合わせる。
「凛さんのせいではありませんよ〜。それに色眼鏡で見られることには、私は慣れていますからね〜」
そう、不勉強な私は知らなかったが、やはり朋花は知る人ぞ知るというか、知る人は知っている存在なのだ。
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