藤原肇「千夜さん、一緒に釣りに行きませんか?」
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42:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:46:33.56 ID:/ZuqsV3u0
気づくと、私の口からそんな言葉がついて出た。
失礼だっただろうか。
ハッとして肇さんの方を向くと、彼女は変わらずに柔らかな笑みで応えてくれた。
43:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:48:38.87 ID:/ZuqsV3u0
――なるほど。ヒーリングスポット、か。
どうやら、魚を釣る以外の目的はあったようだ。
都会の喧噪から離れ、川の上流まで行けば、自然豊かな環境になるのも道理と言えるだろう。
44:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:50:50.70 ID:/ZuqsV3u0
――?
その言い方だと、違うのか?
ただ、と言い置いて、彼女は言葉を続ける。
45:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:52:22.14 ID:/ZuqsV3u0
――無為な時間を過ごすことが、目的。
「そのような考えは、ありませんでした」
黒埼に仕える従者として、常にやるべき事を探し、合理的に時間を使う事だけを考えてきた。
46:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:54:18.44 ID:/ZuqsV3u0
アイドルを始めたばかりの頃、お嬢さまがしきりに仰っていた言葉を思い出す。
黒埼の従者だけではなく、私にはもっと色々な経験をしてほしいのだと。
「だから……アイドルという珍妙な世界に身を置くようになって、こういう時間が取れるというのも、不思議なものを感じます」
47:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:56:33.60 ID:/ZuqsV3u0
途端、それまで柔らかだった肇さんの顔に、分かりやすく緊張が走った。
私は自身の握っている竿には目もくれず、彼女が奮闘する様子をジッと見守る。
「ち、千夜さん……その、タモを……!」
48:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:57:57.64 ID:/ZuqsV3u0
「ふぅ……やりましたっ」
どうにか逃がすことなく捕まえた魚は、素人目に見ても立派な大きさのものだった。
先ほど肇さんに教わったヤマメとアマゴのどちらなのかは、分からない。
49:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 14:59:38.56 ID:/ZuqsV3u0
「…………」
完全に私のせいだ。
何ということだ。埋め合わせをするどころか、迷惑の上塗りをするなど――。
50:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 15:01:07.30 ID:/ZuqsV3u0
「えっ?」
「だから、竿が川に流されちゃったんです」
――やはり、この人は気ぃ遣いだな。
この日ずっと、私は一方的に良い思いをさせてもらってばかりいる。
51:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 15:02:28.91 ID:/ZuqsV3u0
なるほど。
それはお嬢さまも、きっと喜んでくれる。
「分かりました」
52:名無しNIPPER
2021/10/30(土) 15:04:35.55 ID:/ZuqsV3u0
私は気づいた。
なかなか釣りも、悪くないものだ。
それは、ヒーリングスポットが精神衛生上良いとか、自然に触れて贅沢な時を過ごすとか、そういった理由からではない。
「肇さん」
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